調査委員会調査におけるCFEの活躍
調査委員会を組成した企業・組織側には、こうした平時からの備えや覚悟が求められるわけですが、委員の人選も、調査結果を左右する非常に重要な要素です。
実務面で申し上げると、調査委員会を組成する場合の委員選考は不正事案の内容や領域によって変化します。会計不正、贈収賄、談合・カルテル、データ偽装、ハラスメントなど、その不祥事案に適した専門家を選任することが肝要です。ただ、企業の不祥事はほとんどの場合が突発的に発生するもの。どうしても、限られた時間的制約の中で人選を行わざるを得ません。
そうした意味でも、調査のハブになる委員(委員長)の人選がとりわけ重要です。調査委員会の調査がチームプレーである以上、委員選考においては人脈も大きな要素になります。例えば、委員長が弁護士であっても、公認会計士やフォレンジック専門業者などとのネットワークがないと、調査補助者を含めた強力なチームを組成することは難しいことがあります。また、海外事案の場合、当該国の弁護士や会計士に協力を要請する必要も出てくるものです。
特に会計不正では、次の決算発表までに調査を終了させなければいけないなどといった形でタイムリミットを強く意識した調査が求められます。限られた時間の中で調査を完遂しないといけませんから、委員同士が基礎的な事項から議論している時間的余裕はありません。
そうした制約の中での調査、例えばヒアリングの進め方について申し上げると、いかに短時間で効率的にピンポイントの情報を聞き出せるか、ヒアリングで得られた情報のメモをどのように整理・集約するか……。その委員および補助者がこうした業務をどれだけ経験しているかで調査の進捗は大きく変わってくるものなのです。
そうした豊富な経験を持つプロフェッショナルの間で公認不正検査士(CFE)資格を持った人たちが増えていることを最近、特に実感しています。弁護士、会計士などと職能は違っても、CFEの場合、ベースとなる不正への考え方が共通していて、不正調査に対する理解度や経験値が高まってきている印象があります。
特に最近では、大型の不祥事事案において、CFE資格を持つ弁護士が調査委員会の委員長等に選任されるケースも目立ってきています。また、弁護士や会計士という肩書以外にCFEと併記されている委員が作成した調査報告書も増えています。
逆説的に言えば、CFE資格を持っていなくても、調査委員会調査はできるわけです。にもかかわらずCFEが増えているということは、調査を進める上での共通言語であったり、共通経験であったり、そういう要素が調査結果に大きく影響するという認識が広まったからではないでしょうか。なお、私は日本公認不正検査士協会(ACFE JAPAN)の理事ですので、利害関係のある立場でアピールしています(笑)
企業の再生に資する「インハウスCFE」の効用
一方、実際の調査においては、調査委員会を組成した企業側には委員会に対応する事務局の立ち上げが必要となります。社内で資料を集めて調査チームに共有したり、ヒアリングの日程を調整したりといった、主に事務的な業務を担います。
事務局のキーパーソンになる企業人がCFEの有資格者であるというケースも散見されるようになってきました。そうした場合、調査委員会側としては円滑に調査を行うことができます。資料収集や原因分析、再発防止策の遂行までのプロセスにCFEがいると、調査側もコミュニケーションがよりスムーズになるというのが実感です。
委員は期間中、独立的な第三者として調査を行いますが、調査が終了して報告書が公表された後は、企業の中で役職員の人たちが再発防止に向けた取り組みを実施していかなければなりません。CFEはそうした担い手の有力な候補と言えます。社内の事務局の中にCFEがいることで、調査委員会の報告書公表から、シームレスにその後の再発防止対応を続けていくということが、実は最も重要な企業再生の“あるべき姿”ではないでしょうか。
不正・不祥事は本来、発生させてはならないものです。しかし、企業・組織においてそうした事態は完全に予防できるものでないのも偽らざる現実です。データガバナンスにせよ、組織内CFEの育成にせよ、いずれも平時に行っておかなければなりません。こうした有事への備えもまた、経営者として覚悟を持って進めていくべき事項のひとつであると思います。
(取材・構成=編集部)