「公益通報者保護法」改正案――“消費者庁出身”日野・淑徳大学教授が語る重要ポイント

4.消費者庁の権限強化で違反企業への立入検査も可能に

4つ目が、常時300人を超える労働者を使用する事業者において、従事者指定義務に反している場合、現行法では第十五条の「報告の徴収並びに助言、指導及び勧告」として、また、第十六条の「公表」に、

(報告の徴収並びに助言、指導及び勧告)
第十五条 内閣総理大臣は、第十一条第一項及び第二項(これらの規定を同条第三項の規定により読み替えて適用する場合を含む。)の規定の施行に関し必要があると認めるときは、事業者に対して、報告を求め、又は助言、指導若しくは勧告をすることができる。

(公表)
第十六条 内閣総理大臣は、第十一条第一項及び第二項の規定に違反している事業者に対し、前条の規定による勧告をした場合において、その勧告を受けた者がこれに従わなかったときは、その旨を公表することができる。

と記載されてありますが、改正案では第十五条等に加える形で、勧告に従わない場合の命令権および、命令違反の時の刑事罰(30万円以下の罰金、両罰)を新設し、さらに第十六条などに付随する形で、消費者庁の立入検査権限と、報告怠慢、虚偽報告、検査拒否に対する刑事罰(30万円以下の罰金、両罰)が法文に盛り込まれます。

2022年6月施行の改正公益通報者保護法で、企業には内部通報体制整備義務が設けられ、実効性のある窓口運用が求められるようになりましたが、やはり日本の制度はG20の中でも遅れているとされ、EUの公益通報者保護指令等、国際標準に合わせるためにもより通報者保護を明確化する必要がありました。

今回の改正法案について、企業にとって今後、検討が必要な点を主にまとめてみると、①企業の内部公益通報体制の整備の徹底と実効性の向上)、②誰もが気兼ねなく公益通報ができる環境整備を進めること、③公益通報を理由として不利益取扱いをさせないこと、④多様な主体が通報できるようにすること、この4点になります。

本来、公益通報者保護制度は企業が自浄作用を発揮して、問題の外部漏洩を防ぐための重要な仕組みです。現代は、SNS等をはじめとしたソーシャルメディアの普及により企業が通報に適切に対応しなかったことで、真偽の検証なく情報が瞬く間に世界中に広がっていき、一度広まると簡単には消すことができません。

ですので、企業のレピュテーションを著しく下げないためにも、また、企業の自浄作用をさらに高めるために、今国会で提出される改正案を念頭にしながら、今一度、自社の内部通報制度がきちんとワークしているか見直す良い機会といえるでしょう。

公益通報者保護制度は、公益通報によって不正・違法行為が早期に発見され、結果として健全な組織に向かい、公正・公平な社会へつながるものであり、まさに組織や社会を良くする法制度です。企業は、公益通報者の声を真摯に受け止め、組織の自浄作用を高めることに活かしていく必要があると考えます。

(取材・構成=Governance Q編集部)