【子会社ガバナンス#1】大企業の「不動産子会社」で不祥事が起きた背景
A社・B社の不動産取引“失敗”の共通点
この2件が興味深いのは、子会社の状況、取得から失敗に至る経緯、事後の対応まで驚くほど似通っていることだ。
第一に、A社もB社も経営陣は親会社からの天下りで、不動産事業に詳しい人はいなかった。第二に、問題の物件を担当したのは中途採用した社員だった。第三に、A社は初めてのマンション建設、B社は初めての首都圏進出と、“初”の事業だった。事業拡大を目指した時に、中途入社したばかりの社員が大型契約を持ち込むと、上司、部長、取締役会と、稟議がすぐに通ったのである。
A社もB社も初めての取引相手だったが、社内で、踏み込んだ与信なり調査なりが行われた形跡はなかった。
売り主は、名義上は企業の体裁を取っていたが、背後は企業舎弟であり、元バブル紳士だった。担当社員は、交渉の場でそれを目の当たりにしている。しかもA社の場合、最初の買い主の関係者が二重売買を止めようとして、A社の取締役に事情を訴える手紙を送ったが、社内で取り上げられることはなかった。
契約の現場では不可解なことも起きていた。A社の場合、立ち退きを拒む店子が複数いたにもかかわらず、購入代金を決済していた。B社の場合、売り主による地上げ完了を引き渡しの条件として、100%取得できる状況ではなかったが、契約時に通常よりも多額の手付け金を支払っていた。
第四に、取得を希望する企業が他に数社いたが、A社もB社も圧倒的に高い金額を提示していた。そして他社が驚いた金額の妥当性を、社内で検討した形跡もなかった。
社内で与信、調査、契約内容のチェックが行われていれば、明らかに疑義が出た案件であり、取引を中止しないにせよ、修正はできたはずなのだ。
第五に、トラブルが起きると一転して“隠蔽”が図られたことも共通している。上司、部長、取締役会は稟議を通してしまったためか、誰も責任を取らず、第三者への売却、または契約解除を以って何も起きなかったことにした。
確かに、A社は売却損が出たものの転売することができた。B社は高額な手付け金を取り戻すことができた。両社とも今回のケースで大きな損失は回避できたが、経緯を検証して、責任の所在を明らかにし、社内体制を構築しなければ、また同じことを起こすだろう。
実際、逮捕歴のある人物が千葉県で大規模な地上げを手掛けているが、買い主候補として、B社の名前が挙がっている。
問題は、取引にかかるチェック体制の脆弱性、責任の所在が不明確、隠蔽体質……とあるが、これらはA社とB社に共通するものであり、同じ過ちを犯したのは偶然ではないだろう。
両社最大の問題は、経営陣によるガバナンスが機能していなかったことに尽きる。経営陣は親会社からの天下りで不動産事業に精通していなかったことは前述したが、チェック体制の不備も、責任の所在不明確も、隠蔽体質も、すべて経営陣の責任に帰結するだろう。
親会社の問題もある。金額が大きいだけに、事前に報告は行われてしかるべきだが、単に報告を受けただけでは意味を成さなかったことになる。逆に報告を受けてなければ、親会社としての管理責任を放棄していたことになる。
親会社の子会社に対するガバナンスはどうあるべきか、#2以降の記事でさらに掘り下げていく。
(#2に続く)
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