(#2から続く)創業社長は、株主総会の時期が近くなるにつれ、取締役会における数的優位を確保するための布陣を着実に構築していった。本来、各取締役は代表取締役の独断専行を牽制・抑止し、取締役会における意思決定に積極的に参加すべき存在のはず。しかし、イエスマンを並べ立てた取締役会では、このスタートアップのガバナンスが機能不全に陥るのは自然の成り行きだった。
子飼いの社員を取締役に抜擢
「この危機的な状況では、これまで明日も見通せない中で奮闘してきた創業メンバーが取締役にふさわしい」
新任の取締役候補者は、社外だけでなく、社内にもいた。海外法人を立ち上げた経験のある比較的若い創業メンバーを取締役として社内昇格させたのだ。社長が主要株主に事前に根回しをして、お墨付きをもらっていたのである。
経営戦略があってこその人材戦略。この順序が大前提となるはずだ。しかし、自身に都合の良い布陣を目的にした抜擢人事……そんな人事に辻褄を合わせる経営戦略では、うまくいくはずがない。事実、「海外展開を加速させる」という経営戦略とともに、社内発信された創業メンバーの取締役登用であったが、以降、数年経った今日まで新たな海外への事業展開は実現されていない。
創業社長になびかない社外取締役を退任に追い込み、自身の色が付いた新たな社外取締役を招き入れたうえ、創業メンバーである子飼いの社員を取締役に昇格させた。それが体制変更に納得していない創業社長の出した結論だった。
ここから数カ月間、社内は悲惨な状況に陥っていたという。一時は副社長らによる改革に期待した若手メンバーを中心に退職者が続出。櫛の歯が欠けたように社員が去り、日常業務にも差し障りが出るほどに。しかし、創業社長による“自分のための王国”は安泰となった。言い換えれば、当初、反旗を翻した主力メンバーの詰めが甘かったのである。
しかし、問題はそればかりではなった――。