【損保ジャパン「金融庁処分」の深層#2】18年前の“同根の業務停止命令”
(#1から続く)中古車販売大手ビッグモーターによる保険金不正請求問題をめぐって、金融庁は1月25日、損害保険ジャパンおよび親会社のSOMPOホールディングス(HD)に業務改善命令を出した。損保ジャパンでリスク管理担当役員を務め、現在は日本経営倫理学会常任理事の井上泉氏(ジャパンリスクソリューション社長)が、損保ジャパン問題を総括する新シリーズ2回目は、金融庁処分の背景を業務改善命令、ビッグモーター、損保ジャパン、三井住友海上の各第三者委員会による調査報告書等をもとに探る。
【前回シリーズ】「ビッグモーター×損保会社」問題の核心(全6回)
金融庁処分「5つの背景」
金融庁の問題意識は、損保ジャパンに関する以下の5つの事実に根差しています。
【背景①】ビッグモーター「取引再開」の経営判断(2022年7月6日)
ビッグモーターにおいては、2022年1月の内部告発をきっかけとしたビッグモーターの社内調査、損保ジャパンを含む損保各社のサンプル調査などを通じ、修理車両の車体に損傷を新たに作出して修理範囲を拡大、不要な板金作業や部品交換、中古部品を使用しながら新品で請求するなど保険金の水増し請求という極めて悪質な行為が組織的に反復・継続されていたことが発覚しました。「水増し請求」とか「不適切請求」などと柔らかい言葉で表現されていますが、本質は修理工場の収益拡大のため意図的に行われた「保険金詐欺」であり、刑法上の罪に当たります。
ビッグモーターの不正行為を認識してから、主要取引損保3社(損保ジャパン、三井住友海上火災保険、東京海上日動火災保険)は、2022年6月からビッグモーターへの事故車両紹介を停止していたのですが、損保ジャパンだけが同年7月25日から事故車両紹介を再開しました。ところがその後、ビッグモーターの不正行為に関する他社の追加情報を知らされ、損保ジャパンは再開してからわずか1カ月半後の9月9日に慌てて、車両紹介を再停止するという醜態を演じています。
お粗末な役員ミーティング
車両紹介再開の決定は2022年7月6日、損保ジャパンの白川儀一社長(当時、2024年1月31日辞任)を交えた役員ミーティングでなされているのですが、ビッグモーターの不正請求の事実を知りながら、ビッグモーターとの関係維持を優先してさらなる追加調査をせず、“未来志向”の名のもと車両紹介再開を決定してしまったのです。会議はたった30分間でした。
これについてSOMPOHD調査報告書は〈こうした方針決定の在り方自体、お粗末と言わざるを得ない〉とし、金融庁は〈顧客保護やコンプライアンスを軽視し、自社の営業成績・利益を優先させ、十分な事実関係を追及せず、曖昧な事実認識の下、十分な議論を行わないまま入庫再開を拙速に決定している〉と指摘しています。
三井住友海上は早期に厳格対応を固めていた
損害保険代理店としてのビッグモーターの取り扱い保険料が約200億円と巨額なものであったため、損保3社ともビッグモーターへの迎合的取引姿勢は大同小異なのですが、ビッグモーターによる見逃すことのできない組織的恒常的不正行為を知ってからの行動が違っていました。
例えば三井住友海上火災では、2022年1月の内部告発を受けて、自社でサンプル調査を行ったところ、300件中25件の疑義請求を発見、3月22日の段階で、損害調査担当役員が社長に「ビッグモーターに自主調査をさせ、疑いが晴れるまで車両紹介を停止する方向で検討中」と報告し、社長からは了承されたうえに「より厳しい措置も視野に入れて厳格に対応しろ」との指示を受けているのです。東京海上日動火災も同様に厳格な対応姿勢を示していました。
ところが損保ジャパンでは、ビッグモーターの代申会社として情報を得る最も近い立場にいながら、問題の認識(2022年1月)から最終的車両紹介停止(同年9月)の意思決定まで、9カ月も要しているのです。その途中過程において、損保3社が協力して車両紹介を停止し、ビッグモーターに実態解明を迫るという当初の申し合わせを、損保ジャパンが一方的に破棄して、抜け駆け的にビッグモーターとの取引を再開したことに2社は驚愕し、強く反発していました。ビッグモーターの主要取引損保3社中、損保ジャパンだけが処分された理由は、まさにここにあるのです。
私は、問題発覚から取引再開に至る損保ジャパンの経営陣の対応ぶりを見るにつけ、暴走する機関車が危険な急カーブに差し掛かっているにもかかわらず、スピードを落とさず突っ込んで脱線転覆し、そのまま谷底に落ちていくスローモーション映像を見ているような思いがします。
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