通報窓口の担当者の人となりを知らせて心理的ハードルを下げる
また、内部通報制度が早期発見のための有用な手段と捉え、自社(グループ会社を含む)の役員・社員等が自発的・積極的に内部通報を活用できる環境を整えることが重要です。
そのためには、経営トップが、内部通報制度は、会社のサステナブルな存続のための有用なツールであり、不祥事情報に接した場合は積極的に通報制度を利用して欲しい、絶対に犯人捜しも、報復もさせない。会社が通報者を徹底的に守るから情報を提供して欲しい等とのメッセージを繰り返し発信して社内で周知させる必要があります。
それができないから、どうしても許せない行為は「内部告発」といった形で行政やマスコミといった外部に告発するしかなくなり、外部に出てしまうと、自浄作用を発揮できない企業というレピュテーションの毀損すら招いてしまいます。繰り返しですが、経営トップがどれだけ真剣に内部通報を機能させたいのか、その本気度が試されます。
また、通報することへの心理的なハードルを下げることも大切でしょう。
最近では法律事務所や専門業者など、社外に通報窓口を委託する企業も増えています。従業員としては、広義の意味で同僚である社内の窓口担当者に通報するよりは心理的ハードルは下がると思います。私の経験ですが、ある企業で不祥事が発生したのを受け、ワンポイントで全従業員に対するコンプライアンス研修を行ったことがあります。すると、私自身が内部通報窓口を引き受けたわけではないにもかかわらず、その会社の従業員から、しばらくの間、通報が寄せられ続け たのです。
従業員から「あの弁護士なら、通報しても大丈夫だろう」と認識されたのだと思いますが、ここで重要なのは外部窓口がどういった組織で、どういった人たちが通報を受け付けているのかをきちんとオープンにすることです。社内のイントラネットに載せるでも、ビデオメッセージを配信するでもいい。通報先(相手)の顔や人となりがわかれば、社員は安心できますし、それにより通報の心理的な障害も除去されるのです。
内部通報制度は事が大きくなってから利用するツールではありません。そもそも、経営者が高額な業績連動報酬を得るために大がかりな粉飾を確信犯的に行うような米国などの不正と違って、日本の場合、自らの私利私欲のためではなく、職場の空気などを過剰に忖度し、それを会社や同僚のためと勘違いして不正に手を染めるケースが圧倒的に多いと言えるでしょう。「もしかして」や「ひょっとしたら」といった小さな不正は現場が一番よく知っているわけですから、少しでも違和感を覚えたら芽の小さいうちに通報する――。
これが日本で内部通報制度が機能していく第一歩になると思います。そして、その前提として、社内で「内部通報をしてもいい、経営者もそれを歓迎している」という雰囲気が浸透していて、誰もが安心して通報できる環境が定着していることが重要です。内部通報制度に魂を入れるのは、ひとえに経営者自身なのです。

(遠藤元一弁護士インタビュー 了)