日経弁護士ランキング首位、太田洋弁護士「アクティビストの“本性”を見せつけられた2024年」【新春インタビュー#12前編】
村上世彰氏登場、ダイドーリミテッドの増配判断は正しかったのか
もうひとつ、コーポレートガバナンスの観点で言うと、5円配当を100円配当に引き上げたダイドーリミテッドの判断について、結局のところ、「村上氏から要求されたから実施した」という説明で本当にいいのかという問題があります。
配当可能利益(株主に配当として支払うことのできる限度額)の範囲内であれば構いませんが、今回1億円にまで減資をし、さらに資本準備金等も取り崩して “超高額配当”を行っています。
村上氏に要求されてやむを得なかった、という事情が理解できないわけではありません。しかし、本来、ダイドーリミテッドの経営陣は、筆頭株主だったSCに「村上氏の要求は企業価値を毀損すると考えるので、自分たちとしては要求に応じないで頑張ってやっていきたい」と主張し、むしろ、SCを味方につけて村上氏の要求を突っ撥ねるという道もあったのではないでしょうか。
コーポレートガバナンス・コード(CGコード)における「株主との対話」でキーワードとなるのは「会社の持続的成長と中長期的な企業価値の向上」です。これはCGコードが15年に策定された時以来の一貫したキーワードであって、今回のダイドーリミテッドの判断は“会社の持続的成長”という観点からも、“中長期的な企業価値の向上”という点からも疑問が残るように思います。
要は、アクティビストを追い払うためにアクティビストの要求すべてを呑むことが、その企業のガバナンスにとって良いことなのか。こうした問題を突き付けたという側面もあったと思っています。
そもそも、コーポレートガバナンスはこれまで、発行体企業の経営者が「株主利益を十分に考慮してないのではないか」という問題意識から語られてきました。実際にそういう日本企業が多かったのも事実です。
ただ今回、非常にクリアな形で、特定の一部株主が主張する株主利益の追求が短期的な視点からのものであり、中長期保有を考えている株主、あるいはその他のステークホルダーとの関係から見て、果たしてそれが最適解なのかという問題が示されました。
むしろ、そうした一部株主の主張こそ、CGコードが掲げる目標の達成を著しく困難にしているのではないか。昨年のダイドーリミテッドの一件は、そのような意味でガバナンスはどうあるべきかを考える“良い教材”になったと言えるでしょう。
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