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ドン・キホーテ社外取締役、立命館大学・西谷順平教授「不確実な時代に求められる社外役員の“別視点”」【新春インタビュー#11】

失敗まで楽しめるか……問われる日本企業のガバナンス

私の専門である「分析的会計研究」は会計事象を数理的に捉える学問ですが、ガバナンスの問題を考える際には人間同士の関わりをゲーム理論的に分析します。ゲームの最適解から現実を見る時、現実のほうを最適解に近づけると、意外と上手く収まる場面もあるのです。

例えば、不正会計では会計を誤魔化すわけですが、数値を誤魔化し続けていると、今度は肝心な内部管理が出来なくなる。内部管理が出来なくなると、組織内の調整コストが大きくなり、その状態が進むと、“裏帳簿”をつくることが最適解になる。そして裏帳簿をつくり始めることで、組織的な不正へと発展する――簡単に言えば、こういうことになるわけです。

そして裏帳簿を誰がつけているのかで不正の主体がはっきりしてきます。そういったことを数式で考えていきます。点と点を結びつけて線を描き、その線で絵を描いてく。さらに、その絵をどう動かすか。構造的に物事を見て、最適解ではない動き方をする場合に「そう動くと後々大変ですよ。最適解はこうですよ」と指摘していくのです。

社外取締役などの立場でも、私はそういった視点から発言するようにしています。社外取と言うと、一般には会計や法律などの専門知識・能力が求められることが多いようですが、企業はそういった専門家とすでにサポート契約を結んでいるでしょうから、むしろ内部では気づかないことを横串的に、全体を構造的に見る視点が必要なのではないかと思います。

ゲーム理論という分析ツールの視点からコーポレートガバナンスを見ると、いろいろな最適解が存在する可能性を示すことができます。こういう条件が揃うと上手くいかないけれども、こういう条件の時は最適解がある、と提案することができますし、ガバナンスという点で“気づき”を与えることができます。

答えを考え、最終的に実行するのは企業で言えば、執行の役職員のみなさんになりますが、彼ら・彼女たちが抱えている問題に対する物の見方を、社外取締役は分かりやすく提供できることもあるように思います。企業経営を知らない学者が社外取を務めることに批判的な意見もありますが、むしろ、向いている部分も多いのではないかという気もしています。

例えば、報酬制度。成果報酬制度であれば、ひとつの数字にこだわるのではなくて、多面的に成果を評価するほうが上手くいくというのは、すでに研究の成果で出ているわけです。そういった研究成果は積み上がっており、さまざまな事象に理論的なフレームワークをきちんと示すことができるようになっています。

従来、日本のコーポレートガバナンスは人や仕事をベースに考えられていましたが、属人ではなく“仕組み”で組織を動かしていくことが必要ですし、株主から見ても仕組みで会社が動いているほうが安心感を持てるはず。そういうことも含めて思考していくことが組織を強くし、結果的にガバナンスの強化につながっていくのではないでしょうか。

今年2025年のガバナンスをめぐる展望ですが、日本の経営者に今一番不足しているのは「リスクテイク」だと思っています。今年はそれがかなり問われることになるでしょう。米国にトランプ大統領が誕生しました。世界情勢が不確実になるとも言われていますが、本当なのか。逆にトランプ大統領のような存在がいるからこそ、危機感を持って自分たちで何とかしようという動きも出てくるのかな、という気もしています。

これからの時代は、本質的に何が重要で、何が強く、何が競争的に優位なのかということが、改めて問われる世界が到来すると考えられます。例えば、トランプ大統領のような存在の出現によって、これまでとは違った問題や違った解決方法が見えてきて、価値観まで揺さぶられる。それは個人だけでなく、企業も同様で、日本企業のコーポレートガバナンスの真価が問われる年になるでしょう。

現在においてリスクをテイクするということは、失敗してももう一度やり直すだけでなく、失敗するかもしれないけれどもあえて手を出して、その失敗の仕方を変えていくことが求められるのではないでしょうか。そういう時代を楽しく乗り切っていくのか、それとも文句を言いながら沈んでいくのか――。このことが問われる一年になると思います。

(取材・構成=編集部)

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