ドン・キホーテ社外取締役、立命館大学・西谷順平教授「不確実な時代に求められる社外役員の“別視点”」【新春インタビュー#11】

社外取締役は“組織に横串を刺す”存在

ところで、2017年9月からディスカウントストア「ドン・キホーテ」の持ち株会社、パシフィック・インターナショナルホールディングス(HD)の社外取締役を拝命しています。そういう経験から言えることは、社外取が機能するのは、往々にして“極端な状況”の時ということです。

西谷順平・立命館大学教授

本来的には“お目付役”というのは日常的には影を潜めていて、むしろ社外取締役が活躍すること自体、必ずしも良いこととは言えません。逆説的ですが、社外取が活躍することがないよう、日頃からあらゆる現場に目配せすることが大事になってきます。

ただ、そうなると社内役員と社外役員の区分が曖昧になると言われるかもしれません。しかし、社内役員とせめぎ合うことも社外取締役の仕事ではないかと思います。

社外取締役をめぐる議論では、組織に“横串を刺す”存在としての社外役員という位置づけが重要だと思っています。大企業の場合、役職員が隣の事業部のことすら知らないというケースは珍しくありません。技術者として入社した人は営業のことを全然知らないし、その逆も然り。果ては、社内役員レベルの人でも実は社内全体のことがよく分かってないことも往々にしてあります。

タテ割り組織の中でお山の大将になっていて、お互いに相互理解がない中、社外取締役が声をヨコに掛けていく、あるいは、全社的なテーマに関する情報を部門横断的に提供してもらうことによって、企業自体が初めて気づくことも一般的にはあるでしょう。

特に現在、企業の持続的成長に欠かせないESG(環境・社会・ガバナンス)などの分野では、“横串を刺す”ことが重要になってきます。昨年から始まった人的資本情報の開示義務も人事部だけでは対応が無理で、横串を刺さないと情報が出てこないものです。そういう意味でも、部署を超えてガバナンス問題に関わることができる社外取締役の存在と役割が重要だと言えます。

また、社外取締役目線で言うと、ホンダと日産自動車の経営統合に注目しています。コーポレートガバナンスのやり方も違う企業同士が一緒になって、どうなっていくのか。昔から企業カルチャーの合わない同士が統合しても、本当に一体となるには相当な時間がかかるものです。両社の統合は“国策”とも言われていますが、果たしてうまくいくのかどうか。ガバナンスの問題が問われることになるでしょう。

これに加えて、中居正広氏の「9000万円女性トラブル」の行方も見逃せません。時々刻々と状況が変わっていますが、中居さんが芸能界からの引退を発表し、当初は渋っていた日弁連のガイドラインに基づく第三者委員会を立ち上げることにしたフジテレビ、そして持ち株会社のフジ・メディア・ホールディングス(フジHD)のコーポレートガバナンスに焦点が集まっています。どこまで掘り下げた調査が行われるのか……私自身、注視しています。

こう見ると、昨年のコーポレートガバナンスをめぐる事象は、川崎重工の架空取引は現場の不正問題で、ホンダ・日産は企業風土の統合問題。これに対し、今もっともホットとなっているフジテレビは会社風土そのものが問題になったと言えるでしょう。