髙田明・ジャパネットたかた創業者「息子に社長を譲って会長に就かなかった理由」【新春インタビュー#5前編】
髙田 明:ジャパネットたかた創業者・A and Live代表取締役
各人さまざまなバックグラウンドを持つ“賢者”に、自らのガバナンス論を語ってもらう本誌「Governance Q」の2025年新春連続インタビュー。元日の今回は、あの甲高い声でお茶の間でお馴染みだったジャパネットたかた創業者の髙田明氏。髙田氏は10年前の15年1月、当時まだ30代だった長男の髙田旭人(あきと)氏に社長職を譲った――。規模の大小を問わず、サクセッションプラン(後継者育成計画)に悩む経営者が多い中、会長に就くことなく、自らが産み育てた企業を去ったのは、どういうわけなのか。前編では、その事業承継への思いを語る(髙田氏がコーポレートガバナンスを語る後編はこちら)。
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「今」を生きていたら息子が社長を継いでいた
ちょうど10年前の2015年1月、ジャパネットたかたの代表を息子の旭人(ジャパネットホールディングス代表取締役社長兼CEO)に譲って退任しました。
昨今、事業承継の問題は特に中小企業やファミリー企業が抱えている大きな問題と言われているそうです。そういう社会的背景の中で、ジャパネットたかたの事例をメディアで取り上げてくださるのですが、僕の場合、事業承継を上手くやろうと思ったことはまったくないのです。
なぜスパッと退任したのかと聞かれても、正直に言って「普通にやっただけです」としか言えません。事業承継が上手くいって、企業としても成長できたとすれば、たまたまですよ。
僕という人間はかなりシンプルで、あまり先のことを考えたり、過去のことに悩んだりはしないタイプ。「今」という瞬間を生き続けているだけ。その積み重ねの中で、海外で仕事をしたり、カメラ屋さんをやったり、僕自身の生き方をしてきました。
何かに取り組む時には常に「今を生きる」という言葉を大切にしてきました。これ、お釈迦さまも仰っているんです。過去を想うな、未来を願うな、今を生きなさい――。だから僕、お釈迦さまになったのかなと……。(笑)
それは冗談ですが、「今を生きる」という言葉は昔からたくさんの方が言い続けていらっしゃるなって、最近、いろいろな本を読みながら思います。
今この瞬間を生きていく中で、事業承継の問題も出てきました。日本の中小企業はファミリー経営が多いですよね。いずれは自分の息子さんや娘さんに会社を譲りたいって思うのでしょうけれども、僕の場合はそういう意識は全然なかった。考えなかったというよりも、事業を成長させていくことに忙しかったっていうのもあるんですよね。
息子の旭人は大学を卒業し会社勤務、アメリカ留学を経てからジャパネットたかたに入社しました。一緒にやりながら、彼自身もコールセンターに行ったり、物流センターに行ったり、バイヤー部門をやったりして、本部長から副社長へと経験を積む中で、息子自身の中に何か見えるものがあったのでしょうね。僕のやり方ではない、別のやり方を見つけていった。
そのことについては息子としてではなく、人間として凄いなと思っています。
僕と一緒にやっていた時でさえ、彼自身で学んで、この部分は父親のやり方であっても変えなきゃいけないと思ったら、実行してきた。もちろん、僕が気づかなくて「そうなんだな」と思うところもありますし、一方で「いやいや、そこは違うよ、これからまだまだ勉強していくんだよ」っていう部分もありました。
そういうところをお互いに共有しながら、僕がトップの時はやっていったと思っています。喧々諤々議論しても結果的に、お互いに尊敬しているんですよ。
息子の入社のきっかけは、2004年春の顧客情報流出事件です。アメリカ留学していた息子がたまたま免許の更新で日本に帰ってきており、会社が大変な状況にあるということで、真相解明に尽力してくれました。そこから、アメリカには戻らず、そのままジャパネットに残りました。
それ以降、いろんな試練を共に乗り越えていく中で、激しく議論することもありましたが、目指す方向は同じであるということを感じていました。
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