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青山学院大学・八田進二名誉教授「2025年ガバナンス7つの視点」【新春インタビュー#4後編】

《視点⑤》社外取締役、各人の真価が問われる!

5つ目は、社外取締役の在り方についてだ。

2024年に死亡者まで出す“紅麹問題”を引き起こした小林製薬において、社外取締役が機能しなかった事例は前編でも触れた通りである。このことからも分かるように、いわゆる “有名どころ”の人物をいくら社外取に揃えたところで、真に機能する中身が伴っていなければ会社のためにも、社会のためにもならないということである。まさに、仏作って魂入れずになることを危惧している。

近年はいわば「社外取ブーム」の様相で、モニタリング(監視・監督)の観点からではなく、企業PRを疑わせるような動機で、著名人や芸能人などを社外取に据える事例まで出て来るようになった。また特定の人物が何社もの上場企業の社外取を兼務する「プロ社外取」の如きケースまで散見される。これで、真に社外取締役の役割を果たせるのか。

25年はこれまでのように、「ガバナンス粉飾」とも称すべき見てくれだけを整え、数を揃えるだけの社外取から、質を問う社外取に変化するのことは間違いない。いや、そうしなければ、日本のコーポレートガバナンスは画餅のままである。また、問題発覚時に社外取に責任追及に発展する事例も増えるのではないかと予想する。

《視点⑥》組織構成員すべてがリスク感覚を研磨せよ!

6つ目は、企業人におけるリスク感覚の研磨である。

そもそも、経営トップの資質として、裏表のない高度な倫理観と、組織運営に対してのインテグリティを具備していることが強く求められている。また、ガバナンスを議論する際に、社内の特定の人たち、例えば経営幹部や上層部だけが規律付けの意識を持っていても、健全な組織運営は実現しない。

そのためには、経営トップが範を示すとともに、すべての組織構成員に不正や不祥事に対する健全なリスク感覚を磨いてもらうことが必須となる。

過去の不祥事から何を学び、そして、変化の激しい将来の経営環境にいかに備えるのか。企業を取り巻く環境において、いかなるリスクがあり得るのかを捉える能力を、いかに磨いていくか。

こうした、継続的な取り組みがますます必要になるだろうし、そうしたリスク感覚を研ぎ澄ますためにも、継続的な学びが不可欠になるであろう。

《視点⑦》不正からガバナンスを守るCFEに期待する!

7つ目は、「公認不正検査士」(CFE)の役割への期待である。

CFEとは、不正の防止・発見・抑止のための知識を身に着けた者に与えられる米国発の国際ライセンスであり、会計と調査、双方の知識を有し、組織内外で発生する不正を未然に防ぐとともに、不正や不祥事が実際に発生した際にはその原因究明と問題解決に当たることになる。

視点⑥で触れたすべての組織人のリスク感覚の研磨においても、CFEが保持する知識や知見は体系的で、極めて有用かつ有効なものである。しかしながら、わが国の場合、この国際ライセンスに対する認知度は必ずしも高くはなく、したがって、リスク感覚に対しても鈍感な状況が見て取れるのである。

不正・不祥事が企業・組織のガバナンス危機を招来するこの時代、CFEという存在に対する社会の認識がより広がることで、少しでも、不正や不祥事の防止・抑止につなげられればと願うところである。

八田進二氏(撮影=矢澤 潤)

不吉な予言をするわけではないが、2025年も、企業や組織のガバナンスに起因する問題が絶えることはないだろう。

なぜあの会社で不正は起きたのか、なぜあの組織は不祥事が防げなかったのか――。読者諸氏には、そういった“他山の石”の視点から不正事案を分析し、自分事として考える力を養われることを強く望んでいる。

(取材・構成=編集部)

《視点③》“ガバナンス過剰”で企業が窒息する! …
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