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青山学院大学・八田進二名誉教授「2025年ガバナンス7つの視点」【新春インタビュー#4後編】

《視点③》“ガバナンス過剰”で企業が窒息する!

3つ目は、一方で、行き過ぎたコンプライアンス意識、あるいは、横並び型のガバナンス強化過剰により、活力ある企業マインドとでもいうべき、経営のダイナミズムを衰退させてしまう危険性をはらんでいるということである。

2024年の流行語大賞にテレビドラマのタイトルから「不適切にもほどがある!」(ふてほど)なる言葉が選ばれたが、このドラマの最終回のセリフに「今の社会は生きづらい」というものがあった。その意図するところは、社会全体に寛容さが失われていることにある、というのである。

企業不正について学ぶ際、人は必ず「ゼロトレランス」というワードに触れることになる。ゼロトレランスとは日本語に直せば「不寛容」であることを言い、どんなにわずかな不正でも見逃さず、例外なく処分すべきという姿勢を指す。

確かに違法性が疑われる行為については、例外はまったく認めるべきではない。しかし、道義性や道徳性の範囲で行われることについて、あるいは、あくまでも個人的な問題に対してまで、あたかも法律違反であるかのように不寛容な姿勢で臨むことがどこまで許されるべきなのか。

そのひとつの例が、ハラスメントに対する議論であろう。確かに“昭和”の企業経営がハラスメントの問題にまったくもって無頓着だったことは大いに反省すべきである。だからと言って,昨今の風潮は、何にから何までハラスメントと扱い、他人に与える影響すべてに過敏になり過ぎてはいないか。

LGBTQなど性的少数者への配慮も含めて、25年はハラスメントなどモラルの問題に対する揺り戻しがあるのではないかと思えてならない。逆に、揺り戻しがないまま、その種の議論が現在の延長線上で進んでいけば、経営のダイナミズムを窒息させる結果になるのではないかと危惧している。

《視点④》サステナビリティ情報の信頼性担保に死角あり!

4つ目は、昨今企業が意識しているサステナビリティ情報をめぐる開示と保証についてだ。

サステナビリティ情報とは、企業が持続可能な成長を実現するため、環境、社会、ガバナンス(ESG)の取り組みなどについての情報を指し、それを開示して一般消費者を含むステークホルダーの判断に資することにある。

金融庁が一定規模以上の上場企業に対して開示を強制的に適用する流れとなっているが、問題は非財務情報を含むサステナビリティ情報について、誰がどの観点から信頼性を保証し得るのかという点だ。

海外では公認会計士が保証するケースもあるが、環境問題、人権問題などを含むあらゆる企業活動について、会計士が一体どのようにその内容の是非を判断するのか。そうした議論もないままに、会計士が保証業務の責任を負う流れになりつつある。

さらに懸念されるのは、“非会計士”もこうしたサステナビリティ情報の保証に参画している点だ。いわゆるコンサルタントがそうした保証業務を担う流れが強まってきており、あろうことか、そうした非会計士向け倫理規定までも、日本公認会計士協会(JICPA)の倫理規則の中に含めることとした点だ。

会計士職能の自主規制団体であるJICPAが、その枠外にいるコンサルによるサステナビリティ情報の信頼性の保証業務までを担保するのは筋違いも甚だしいうえ、自主規制団体の本分を全うできるのか、大いに疑問である。

しかも、当の会計士たちが、自分たちの“大本”を揺るがすような事態に無頓着としか思えないのだ(特別寄稿《会計士「自主規制」機能喪失の代償》特集参照)。

2025年には、実際にサステナビリティ情報が開示され、信頼性の保証に関して疑義が呈される事案が発生するのではないか、大いに不安に駆られる事態である。

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