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青山学院大学・八田進二名誉教授「私が考える2024年ガバナンス重大事件」【新春インタビュー#4前編】

学校法人ガバナンスの再建なるか「東京女子医大問題」

⑤の東京女子医科大学の問題は、理事長だった岩本絹子氏が知人のコンサルティング会社を通じて同窓会の業務にかかった費用の一部を自身に還流させていたことに端を発する。

この件については、私も一連の不祥事を受けて設置された「新生東京女子医科大学のための諮問委員会」委員として参画した。そのため、詳細を語ることができない面があることを予めご容赦いただきたい。

第三者委員会の報告書からも明らかなように、東京女子医大問題の核心は、理事長個人に権力が集中する「一強」体制にあった。どんな組織であれ、ガバナンスが効く体制であるためには、業務執行と監視・監督を分離し、健全な組織運営を図らなければならない。

それは企業に限らず、学校法人のような非営利組織でも全く同様である。

むしろ学校法人の場合、巨大な施設や広大な敷地を有していても、固定資産税がかからないなどの税制をはじめとする種々の優遇措置がなされている。さらには、公金である私学助成を受けてもいる。そうである以上、上場企業と同じか、時にはそれ以上の清廉性および透明性が求められることは言うまでもない。

にもかかわらず、そうした最低限の倫理観すら持ち合わせない人物が、理事長や理事として学校運営に関わると、巨大な権力や資金を“私”することにつながりかねないのである。

目下、東京女子医大は再生を期して種々の改革を断行している。果たして、その改革がガバナンス再構築のモデルケースとなるか。私自身、期待をもって見守っている。

以上、5つの個別事例を挙げたが、この中で別々の事案ながら共通項を持つ事例が2つある。

ひとつは②のSOMPOHDと③トヨタに共通する、グループガバナンスの問題だ。子会社は親会社の名前や信用を背景にしながら、一定の自律性・自主性を以て経営されている。しかしながら、顧客や取引先を含むステークホルダーは、親会社の信頼性に担保された形で子会社のことを信頼しているのである。

当然、子会社の不祥事は親会社の信頼に大きく傷をつけるのであり、そうである以上、親会社およびその取締役らは子会社の管理・監督、つまり健全なガバナンスに注力しなければならない。

もうひとつは、③トヨタと④小林製薬に共通する創業家企業のガバナンス問題だ。オーナー企業は意思決定が早く、父祖伝来で継承されてきたカリスマ性を以て企業を統治しやすいというプラスの面は確かにある。もっとも、トヨタの場合は創業家の持ち分は相当低下しているのだが。

しかし、そのプラスの面とはコインの裏表で、創業家が君臨する企業では創業家出身のトップに権力が一極集中するという懸念も強い。結果、社内にイエスマンが増え、気が付いたらトップが“裸の王様”になっていたということも少なくない。そうした企業では、不正や不祥事が起こりやすいとも言える。

ガバナンスをめぐるさまざまな問題が露呈した2024年。では、2025年はどのようなガバナンスの在り方が問われるべきか。その点については、後編で述べたい

(取材・構成=編集部、後編に続く

子会社管理の責任が問われた「トヨタグループ不正認証問…
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