証券取引等監視委員会・浜田康元委員「日本企業の実力を映し出すマーケット整備を」【新春インタビュー#2】
求められる証券監視委の“組織強化”
貯蓄から投資へという大きな流れの中で、個人も含めて株式投資が盛り上がってきています。にもかかわらず、証券取引等監視委員会は昔のままで組織として全然増強されていません。
取引量も増えていますし、コンピュータを駆使した取引技術が発達していて、不正をする方も非常に高度化しています。個人が自宅を証券会社のディーリングルームみたいにして相場操縦をする時代になってきているのです。
上場企業自体の数も増えていますし、中小規模の、ガバナンスが未熟な企業も次々に上場しています。その結果、不正の絶対量は大きくなっているはずなのに、監視委の態勢が一向に変わらないのでは、政府は市場の適正化を本気で考えているのか、疑問に思わざるを得ません。
結局、監視委がいくら頑張ろうとしても、予算がつかない限りは何もできません。職員も増えないし、最近の複雑な取引を検査するためのシステムも取り入れることができないでいるのです。
他方、上場企業の情報発信について言うと、有価証券報告書や適時開示以外にも、SNSも含めていろいろなところからできるようになっており、ある種、野放しの状況です。上場企業の情報発信の適正化を司るという監視委の使命を考えれば、有報や適時開示以外から情報が流れていく現状を許容するのか、規制するのか、きちんと検討すべきではないでしょうか。
そういう意味でも監視委の予算をもっと増強して、「日本の上場企業の情報は信頼できる」という状態を維持しないと、安定株主は増えてこないのではないかと思います。
2025年の動きを予測するのは難しいですが、気になるのは、東証の株価はかなりの部分、日本企業そのものの業績だけではなく、アメリカの相場から影響を受けているということです。
もちろん、アメリカの経済状況が日本の上場企業の業績に影響を与えるという面はあります。ところが、そういう因果関係を経ないで、ニューヨーク市場の株価が上がったから、いきなり東証株価指数も上がるといった雰囲気になっている。日本市場を予測するうえでの撹乱要因になってしまう可能性が懸念されます。
上場企業の業績そのものとか、業績に対する見通し以外の外部要因が主となって株価が乱高下するとなると、不正の温床にもなりますし、本来あるべき形での増資や、資金調達による設備投資にも悪影響を与えかねません。
ですから、アメリカ市場の下請けといった体になっている日本市場の地位がもっと向上するような取り組みを、政府をはじめとする関係各所には行ってほしい。取引所にもっと頑張ってもらって、取引自体のボリュームを増やすとか、市場の信頼性を高める施策をもっと積極的に打ち出してほしい。そう願わずにはいられません。
確かに、日本企業のコーポレートガバナンスは以前に比べて格段に向上しました。しかし、その実力を真に映し出す証券市場かというと、あまりにも心許ない。2025年は証券市場の改革が求められるはずです。
(取材・構成=編集部)
ピックアップ
- ハローキティと企業・組織の心理的安全性【遠藤元一弁護士の「ガバナンス&ロー」#8】…
心理的安全性は不正・不祥事の早期発見にも機能する 確かに、心理的安全性は、組織のパフォーマンス向上にとって欠かせないことは読者にとっても共感…
- 【2024年12月25日「適時開示ピックアップ」】人・夢・技術グループ、井関農機、若築建設、麻生グル…
12月25日水曜日の東京株式市場は反発した。日経平均株価は小幅に反発し、終値は前日比93円高の3万9130円だった。欧米の投資家がクリスマス…
- 証券取引等監視委員会・浜田康元委員「日本企業の実力を映し出すマーケット整備を」【新春インタビュー#2…
求められる証券監視委の“組織強化” 貯蓄から投資へという大きな流れの中で、個人も含めて株式投資が盛り上がってきています。にもかかわらず、証券…
- 【《週刊》世界のガバナンス・ニュース#7】ゴーゴーカレー、カワン・ラマ・グループ(インドネシア)、ウ…
ゴーゴーカレー、インドネシアで現地流通大手と店舗網拡大 「金沢カレー」の火付け役となったカレーチェーン、ゴーゴーカレーグループ(石川・金沢市…
- 【米国「フロードスター」列伝#4】シティグループで25億円横領した“ジャマイカから来た元少年”…
ジャマイカ人移民の少年が抱いたアメリカンドリームとその実現 ゲイリー・フォスターは、カリブ海の島国ジャマイカの、外界とはほとんど接点のない、…
- 【ベーカー&マッケンジー 井上朗弁護士が徹底解説】トランプ政権は日本企業のガバナンスにどう襲…
日本製鉄のUSスチール買収の行方 ──現在、日本製鉄によるUSスチール買収計画をめぐって米政府の対米外国投資委員会(CFIUS)が安全保障の…