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証券取引等監視委員会・浜田康元委員「日本企業の実力を映し出すマーケット整備を」【新春インタビュー#2】

浜田康:公認会計士・証券取引等監視委員会元委員

「貯蓄から投資へ」の奔流の中、裁判官出身の金融庁職員、東証職員のインサイダー事件が相次いで発覚。“市場の番人”への不信感が増幅している。日本企業のコーポレートガバナンス改革が何とか形になろうとしている今、2025年の株式市場はどうあるべきか。公認会計士出身で、証券取引等監視委員会委員を務めた浜田康氏が警鐘を鳴らす――。

2016年から22年までの2期6年、証券取引等監視委員会の委員を務めました。

16年当時、監査法人を退職し青山学院大学大学院会計プロフェッション研究科で会計実務を教えていた時、監視委事務局から委員就任の打診があったのです。なぜ私なのか困惑しましたが、当時、『粉飾決算』(日経BP)という本を上梓し、東芝の粉飾決算問題を取り上げました。この本が監視委委員就任のきっかけになったのかは分かりませんが、執筆時に感じた使命感はずっと持ち続けたいと思っていました。

あまり知られていないかもしれませんが、監視委委員の勤務は平日5日間、フルタイム勤務です。委員長を含めて委員は3人。委員会が週2回あり、そこでいろいろな処分を決めたり、刑事告発を決めたりします。

それが一番重要な業務になりますが、検察への「告発」という重要な案件でも会議ではせいぜい2時間くらいしか時間をかけられません。実質的にはその会議の前に、現場の職員の方から説明を聞いて、事前に討議します。そこでもし疑問点があれば、もう一度調べ直してもらい、もう一度説明してもらうということを繰り返します。

そのほかに、専門分野ごとの助言、私の場合ですと、公認会計士というバックグラウンドがありますから、開示検査課から「こういう会計処理は問題があるのか?」「基準違反になるのか?」など、さまざまな実際の取引事案の理解についてアドバイスを求められるということもよくありました。

その一方で、“勉強”することも結構求められました。インサイダーは他の人が知り得ない情報で株式を売買することですが、具体的にどういうことをやってはいけないのか、どこまで許されるのかは法律や判例で相当詳細に決まっています。私自身はそういった分野には素人でしたから、証券業や証券市場の勉強にもずいぶん時間をかけざるを得ませんでした。

高齢者の金融被害を防ぐ取り組み

歴代最長の9年余にわたってトップを務めた検察出身の佐渡賢一委員長時代(2007~16年)、監視委の存在はライブドア事件や村上ファンド事件などで注目を集めました。替わって、私が委員に就任した16年以降はもう少し視野を広げていこうという雰囲気がありました。

監視委としての大きなテーマと言いますか、方針みたいなものを検討した際に、時代の流れを意識したうえで出てきたのが「弱者対応」、特にお年寄りを被害者とする証券取引です。

実際、高齢者が証券被害に遭うケースは国際的にも増えていました。19年に日本はG20議長国として福岡で国際大会を開催し、高齢化によって直面する課題を優先分野として位置付けようと世界に発信しています。

特に日本は高齢社会のただ中、個人の金融資産が大きいうえ、その多くは高齢者が所有している。要するに、お年寄りをどういうふうに保護するかが時代としての重要テーマになったのです。

高齢者が資産運用するにしても、金融財産の保全にしても、しっかりお年寄りが守られるよう環境を整備しておかないと、金融取引に対する国民全体の不信感が強くなってしまいます。監視委としても、そういう着眼点を持って取り組みました。実際に高齢者を食い物にする証券関係者を摘発したこともありました。

“市場の番人”の不安を解消するガバナンス施策を

最近、本来は“証券市場の番人”である金融庁出向の裁判官や東京証券取引所職員によるインサイダー事件が世の指弾を受けました。

NISA(少額投資非課税制度)、そして新NISAが広く普及し、「貯蓄から投資へ」の流れが日本でも本格化する中にあって、断じて許すことのできない悪行ですが、今回の摘発が監視委による“一罰百戒” になりうるかというと、必ずしもそうではないでしょう。

近年は上場企業の検査不正などの不祥事も多い。全体的に企業における役職員の不正が増えています。

これは各人のモラルが以前よりも低下しているというよりは、時代的に一人ひとりの日本人が精神的に追い詰められている……例えば生活が非常に厳しいとか、孤独・孤立・不幸から逃れられないと感じているとか、そんな閉塞した時代になってきているのではないかとも思います。

証券取引所や金融庁に勤めている人は一般人よりも高いレベルのモラルを持っていなければならないとひと口に言うのは容易いことです。しかしながら、「人間」そのものを考えると、そう簡単な話ではないのかもしれません。

不正を予防するためには、組織自体が職員の不安とか不満を解消するようなガバナンスの施策をもっとしっかり打って、構成員を守っていく必要もあるのではないでしょうか。

一方で、そうは言っても、悪いことをした人は悪い。これは動かし様のない事実で、そこはきちんと摘発していかねばなりません。「不正行為を行ったら実行者を必ず見つけ出し、罪を償わせる」という体制を維持する必要がある。

不正を摘発する当局は粛々と不正に立ち向かって不正・逸脱行為に対してきちんと対応していくのが、本来のあるべき姿だと思います。

求められる証券監視委の“組織強化” 浜田康・証…
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