米司法省が「敗北」を認める
梅雨が明け猛暑日となった昨年2023年7月27日、筆者は本村氏の東京・六本木のオフィスを訪れた。
「良いニュースがあるんですよ」
そう言うと、本村氏はA4の紙を数枚プリントアウトし、手渡してくれた。いつもと変わらない落ち着いた口ぶりだった。
“DISMISSAL”という単語が目に飛び込んできた。「棄却」「取り消し」といった意味だ。想定されたシナリオの中で最良の結果だった。米司法省が敗北を認めたのだ。日付は米国時間では前日の7月26日となっていた。
筆者が目にしたのは、日本で本村氏を支えてきた入江源太弁護士(麻布国際法律事務所代表)宛てに、協力先である米国の弁護士が送ってきた“朗報”を知らせる電子メールと、添付されていた裁判所の文書のコピーだった。

常に颯爽としている本村氏だが、さすがに感無量の様子だった。起訴されてから9年、ラボバンクにLIBOR事件絡みの捜査が入って以来だと約13年もの長きにわたって付き合わざるを得なかった、厄介かつ理不尽な問題からやっと解放されたのだ。
入江弁護士が、本村氏のオフィスとつないだZoom越しに説明してくれた。
「要するに証拠不十分です」
米司法省は起訴取り消しの根拠として、「自主的な出頭を望める理由がない」ことのほか、2022年に連邦控訴裁によってドイツ銀行の元トレーダーの有罪判決が「証拠不十分」として覆された事案を引き合いに、司法省としては「立証能力」がもはやなくなったことを挙げた。
ドイツ銀行の事案では、連邦控訴裁は、金融機関によるLIBOR算出の元となるデータの提示に関し、「虚偽であったり、詐欺的であったり、または誤解を生じさせるようなものであったことを政府(米司法省)は証明できていない」と断じている。
申告データの提示に際して、トレーダー自身や同僚らの利益になるように“調整”が一部で行われたことは確かだが、それを不正行為と認定するには証拠が不十分だったというのだ。
なぜなら、LIBORを運営していた英銀行家協会(BBA)は民間団体であり、LIBORを提示する金融機関に対する監督権限は有していなかったからだ。さらに当初はLIBORを規制する監督当局もなければ、ルールさえなかった。後付けでトレーダーらに刑事罰を科そうというのは、そもそも“無理筋”だったのだ。