「刑務所で性被害に…」とアメリカ捜査官に脅された日本人ビジネスマン【海外法務リスク#2】

ハリウッド映画ばりの捜査

クリント・イーストウッドが監督・主演した「運び屋」という映画作品がある。麻薬組織のためにコカインを何度も車で運ぶことになった、孤独な老人の物語だ。

その中に、麻薬組織の下っ端のフィリピン人が、麻薬取締局(DEA)の捜査官から司法取引を持ち掛けられる場面がある。事前の家宅捜索で薬物と無許可の銃3丁を見つけていた捜査官は、こう脅す。

「お前は終わりだ。終身刑を幾つも食らうだろう。お前のネイルときれいな肌から見て(DEA側はこれに先立ち、この下っ端がネイルサロンでサービスを受けていた時にすでに接触していた)、刑務所では苦労するだろう」

相棒の捜査官がたたみかける。「ごつい野郎の“彼女”にさせられるだろう」

怖気づいた下っ端に選択肢はなかった。これを機にDEAの協力者となり、捜査官に組織の情報を密告することになる――。

強引にも見える捜査当局のこんなやり方は、決して誇張ではない。実際、自動車部品カルテル事件でも、前述の部長を担当したある連邦検事は、小さな丸のある尻の図と、大きな丸のある尻の図を紙に描き、入所時に普通だった肛門も、出所時には広がっているだろうと示唆した。

捜査に積極的に協力しなければ、ギャングや凶悪犯が収容されている厳重警備の刑務所(注4)にぶち込まれ、性被害(注5)に遭う恐れがあると脅したのだ。

(注5)連邦刑務所は警備の度合いによって、緩い→厳しい順に「ミニマム」「ロー」「ミディアム」「ハイ」に基本的に分類される。警備が厳しい刑務所ほど、殺人を含め危険度が増す。ホワイトカラー犯罪の日本人の場合、「ミニマム」で服役する事例が多いが、司法取引においても最終的にどこに収監されるかは確約されない。

(注6)米司法省司法統計局によると、2020年に米国の各種成人矯正施設で計3万6264件の性被害の申し立てがあった。うち立証されたのは2351件にとどまる(https://bjs.ojp.gov/library/publications/sexual-victimization-reported-adult-correctional-authorities-2019-2020)。

代理人弁護士によると、司法取引の過程で、当局への協力を促すため銃を突き付けられたこともあった。

極悪人と違って仕事一筋の日本人ビジネスマンだからといって、米捜査当局が手加減してくれるわけではない。誰もがこうしたハリウッド映画ばりのハードボイルドな場面に出くわすとは限らないが、否定できない現実だ。