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「刑務所で性被害に…」とアメリカ捜査官に脅された日本人ビジネスマン【海外法務リスク#2】

有吉功一:ジャーナリスト、元時事通信社記者

#1から続く2010年代に日本の自動車部品メーカー40社超が米司法省に摘発され、30人超の日本人が米刑務所で服役した「自動車部品カルテル事件」。しかし、海を渡り米国の刑務所に収監された日本人たちは、正式な裁判で禁錮刑に処せられたわけではない。

全員、司法取引に応じて罪を認め、捜査に協力した末に投獄されたのだった。司法取引には処罰の減免につながるというプラスの側面もあるが、反トラスト法(独占禁止法)違反など「重罪」(注1)と認定される行為に関与した場合、裁判で争うのは極めて難しく、現実的には司法取引を受け入れざるを得ないのが実情なのだ。

(注1)厳密には「反トラスト法」という法律はない。カルテルなどを禁止する「シャーマン法」といった複数の法律の総称・通称である。シャーマン法違反は、実害の証明なしに違法とみなす「当然違法」の原則の下、即「重罪(死刑または1年以上の禁錮刑が科される罪)」と認定される。

摘発66人中32人が禁錮刑に

ある自動車部品メーカーでは、法人として米司法省と司法取引を締結する過程で、摘発される可能性のある個人が数人、浮上した。

弁護士によると、その1人である部長は、部下3人が摘発されるのを防ぐため、自ら進んで有罪を認めることを決意した(注2)。部長は米国に赴き、連邦地方裁判所で有罪答弁を行い、カリフォルニア州の刑務所に1年2カ月収監された(注3)。部下3人は訴追を免れた。

(注2)通常、カルテルなど組織ぐるみの事件の場合、会社が法人として米司法省と司法取引を結ぶ際、その取引に含まれて訴追を免れる個人と、会社が締結する取引から排除(カーブアウト)される個人に分けられる。この部長と部下3人はカーブアウト対象者。

(注3)シャーマン法違反の場合の禁錮刑は最長10年。

この部長を含め、自動車部品カルテル事件では、摘発された66人中、32人が司法取引に応じて禁錮刑を科された。残り34人のうち3人(日本人)については起訴が取り消された。1人(韓国人)はドイツから米国に引き渡され、やはり司法取引を受け入れ収監された前回#1記事2頁目表参照



“穴熊”なら一生、日本から出国できない?

その残りの30人はどうなったのか。全員が日本人で、米国で起訴された状態で、日本国内にとどまっているとみられるのだ。自動的に国際指名手配されている可能性が高いため、渡米は厳禁。一歩でも国外に出れば、第三国であっても逮捕され、米国に移送される恐れがある。

「穴熊」とも呼ばれるこの立て籠もり作戦を選んだ場合、日本国内で生活し、仕事を続ける分には支障はほぼない。ただし、起訴された以上、最悪の事態として、米当局が日米犯罪人引き渡し条約に基づき、日本側に身柄の引き渡しを求めてくる可能性がある。

自動車部品カルテル事件に関しては、米当局が動いているとのうわさは多少あったものの、現時点までに具体的な引き渡し請求は確認されていない。事件は2010年2月の各国競争当局による一斉立ち入り調査で表面化したが、すでに時間が経過していることもあり、今後も引き渡し案件が出てくることは考えにくい。

ただ、そうであっても、この30人の日本人は、引き渡しのリスクを考えれば死ぬまで穴熊を決め込むしかないのだ。

司法取引に応じてほぼ自動的に収監されるか、それとも引き渡しリスクを抱えながら日本国内にとどまり続けるか。事件に関与した個人は、まさに“究極の選択”を突き付けられる形となった。

定年間近なら、穴熊作戦を選択してもあまり不都合は生じないかもしれない。それに対し、若手の場合は、司法取引に応じてカルテル事件なら平均的な1、2年間、米刑務所で服役し、再び会社に復帰して再起するのが得策とも言える。

司法取引の中で、服役後は再び自由の身が保証されるため、米国出張も可能となる。また、米国で処罰を受けたとしても、日本国内で前歴がつくわけではない。

ただいずれにしても、会社のため、家族のため、自己実現のために働いてきたビジネスマンにとっては、過酷すぎる現実だ。

日本人ビジネスパーソンが受けた驚愕の米当局による取り調べ(続きを読む方は会員登録を)

有吉功一:ジャーナリスト、元時事通信社記者 (#1から…
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