非会計士をも対象にするIESBA設定の「サステナ保証」倫理基準
さらに問題なのは、IESBAが設定する倫理・独立性基準が、特にサステナビリティ情報保証の部分で非会計士をも対象にしていることだ。
#1でも述べたが、重要なのでここでも繰り返したい。特にIESBAはInternational Ethics Standards Board for Accountantsの略称であり、日本語名称でも「国際会計士倫理基準審議会」とする通り、あくまでも会計士のための(for Accountants)倫理基準を審議する組織のはずである。
にもかかわらず、カブリエラ・フィゲイレード・ディアス議長をはじめ審議会メンバーの半数以上を非会計士が占め、サステナ保証業務を理由に「for not Accountants」、つまり非会計士向けの基準をも策定している点を看過するわけにはいかない。これはいわば、二重の越権行為ではないのか。
この点について、私自身、ディアス議長が来日した際のシンポジウムの質疑応答で直に尋ねている。なぜ非会計士が半数を占める審議会が、会計士の倫理基準を策定できるのか。なぜ公認会計士協会(JICPA)が自ら倫理基準を策定している日本で、非会計士まで適用対象とする含む倫理・独立性基準を策定する権限があるのか。これはもはや「for not Accountants」ではないのか――と。
すると、ディアス議長は「私は新しく創設された財団(IFEA)からの指名を受けてこのポジションにいるだけです」と述べ、さらに「for not Accountants」については「for All(すべての人のための)に組織名を変えたほうがいいかもしれません」などと茶化すにとどまったのである。
こうした質問にディアス議長が明確に答えられないのも無理はない。議長に与えられた使命は、あくまでも国際的なビジネスの世界によって使いやすい基準を浸透させることだ。規制当局主導型の倫理基準を推進するべく、首根っこを掴まれた状態にあり、だからこそ、議長個人の矜持や自身の倫理はまるで見えてこないというのは、言いすぎだろうか。
IESBAは「マルチステークホルダー」の参画を掲げ、多角的に監査・保証業務をとらえることで透明性の高い、信頼できる情報開示の拡大を世界中で支援することを宣言している。そうしたサステナビリティ保証(Assurance)に関する「倫理及び独立性に関する規定」として、IESBAは倫理基準の策定に向けた立ち位置として、以下の4つの視点を掲げている。
① Profession Agnostic 特定の職業に限定されない(すべての事業実施者に適用)。すなわち、既存の会計プロフェッションだけでなく、非会計士をも包含する基準の設定を前提にしていること。
② Standalone 単独で機能する。すなわち、今般新設を予定している、非会計士向けの倫理・独立基準については、既存の倫理基準とは別個のものとして捉えること。
③ Flamework Neutral 特定の枠組みに限定されず、各国の倫理基準の採用を妨げない。すなわち、従来、倫理基準の設定については、「フレームワーク・アプローチ」を採用してきているが、今般の非会計士向けの基準を織り込むことから、既存の枠組みにとらわれないということ。そして、IFAC加盟団体は、法域の違いおよび自国の倫理基準との整合性を勘案してその受け入れを考慮してよいということ。
④ Equivalent 監査における倫理・独立性基準との同等性。すなわち、今般新設される非会計士向けの基準については、監査業務を担う会計プロフェッションが遵守すべき、倫理・独立性基準と同等のレベルのものであるということ。
この③で「各国の倫理基準の採用を妨げない」としている以上、日本のJICPAが自前の倫理基準で自主規制を行っていく道は残っている。しかし、以前からIFACの提供するフレームワークをそのまま日本語に置き換えて採用してきている実態からするならば、前述の通り、JICPAは自主規制を事実上放棄しているように見える。その点、国際基準に距離をとり、建前と実を使い分けるアメリカ流のしたたかな対応にこそ、会計プロフェッションの自主規制の原点を見るようである。
そもそも日本の会計士たちは、自主規制機能を失う現下の国際的な状況をきちんと把握しているのだろうか。