【会計士「自主規制」機能喪失#2】監督当局の手に落ちた”会計プロフェッション”の倫理基準
(#1から続く)会計士を“閉鎖的社会における専門家集団”のように扱い、プロフェッションとしての自主規制を有名無実化させようとする国際会計士倫理基準審議会(IESBA)。その背後にはモニタリング・グループ(MG)、さらには証券監督者国際機構(IOSCO)といったグローバルな規制当局の集まりが控えているのは#1で指摘した通りだ。しかし、なぜそれらの力はここまで大きくなり、会計プロフェッションの自主規制の要というべき「倫理基準」の設定権限まで取り上げることになったのか。それを説明するには、証券や監査のグローバル化が進む最中の2001年に起きた、会計・監査業界を揺るがす世界的事件にさかのぼる必要がある。
エンロン、ワールドコム破綻とアーサー・アンダーセン解散の衝撃
この年、アメリカの総合エネルギー企業、エンロン社で巨額の不正会計が発覚し、2カ月後の2001年12月に、連邦倒産法第11章(Chapter11)の適用を申請し、倒産したのである。同社は海外事業の失敗による損失をSPE(特別目的事業体)に付け替えて簿外債務とし、売り上げ水増しなどの粉飾決算を行っていた。この結果、責任を問われることになったのが、同社の会計監査を担当していたアーサー・アンダーセン会計事務所だった。
エンロン社の不正を見抜けなかったアーサー・アンダーセンだが、続く2002年7月には、同じく監査先であるアメリカ通信大手、ワールドコム社がまたしても粉飾決算で経営破綻。債務総額はエンロン事件を上回る410億ドルで、アメリカ史上最大の破綻劇だった。この結果、信用を喪失したアーサー・アンダーセンは雪崩を起こすように顧客離れが進み、02年に解散。アメリカで「ビッグ5」と呼ばれる大手会計事務所の一角をなしていたアーサー・アンダーセンの崩壊には、アメリカのみならず世界が驚かされることとなった。
これらの巨額粉飾決算事件を受け、アメリカ議会の動きは早く、2002年7月にサーベインズ・オクスリー法、通称「SOX法」と呼ばれる企業改革法が制定され、会計監査の規制強化や企業の内部統制報告制度の導入が図られたのである。会計監査の強化に向けて、SOX法では、新たに非政府組織の「公開会社会計監視委員会(PCAOB)」を設立し、監査基準、品質管理基準、そして倫理・独立性基準などの設定権限を与えたのである。もっとも、当面はPCAOBが各種の基準をゼロから設定するのではなく、アメリカ公認会計士協会(AICPA)が設定してきた既存の基準を受け入れつつ、改訂や新設が求められる場合には、その基準設定の権限を行使することになっている。
アメリカでは、証券取引委員会(SEC)の監視のもとで、AICPA所属の公認会計士に対して監査独占権限が与えられている。その引き換えとして、AICPAには厳格な自主規制を機能させることを要請しているが、万が一、十分な自主規制が機能していないと判断された場合には、かかる監査独占権限はSEC-PCAOBに取り上げられてしまうという構図が見られるのである。したがって、アーサー・アンダーセンの事件を機に、不幸にも、アメリカにおける会計プロフェッションの自主規制は本質的な意味で終焉を迎えたと言えるのである。
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