コスモHDvs.旧村上ファンド「買収防衛策」導入決議の“奇策”に疑問符【株主総会2023】
コスモHDと東京機械は同じケースなのか
ここで改めて日本におけるMOMの“原基形態”と言うべき東京機械の事例を振り返る。当時の報道などによると、東京機械は2021年10月、買収防衛策の是非を問う臨時株主総会の決議で、約4割の株式を持つアジア開発などの議決権行使を認めなかった。臨時総会ではアジア開発などを除く株主の約8割が会社側の防衛策に賛成。11月に効力が発生するのを前に、アジア開発側は「株主平等の原則に反する」などと主張し、防衛策の差し止め仮処分を東京地裁に申し立てた。
しかし、地裁は「株主総会の手続きに適正を欠く点があったとはいえず、正当性を失わせるような重大な瑕疵(かし)は認められない」などとして却下、東京機械の買収防衛策の発動を認める決定を出した。さらに東京高裁も地裁決定を支持、その後、最高裁はアジア開発の特別抗告と許可抗告を棄却する決定をし、防衛策の発動を認めた東京地裁、東京高裁の決定が確定している。
地裁は、利害関係者以外の過半数を要件とする決議について、公開買付規制の適用対象外である市場内取引による株式取得を通じて、持ち株割合が3分の1を超える株式を短期間のうちに買収した行為について、一般株主に対する「強圧性」を認定。また、一般株主が適切な判断を下すための十分な情報と時間を確保することができないことが、会社の企業価値を毀損することなどになるのか否か、それを防止するために対抗措置を発動することが必要か否かについて、株主総会で一般株主のみによる意思確認を行うことは、「直ちに不合理であるとはいえない」と、買収者・アジア開発側の主張を退ける判断を示した。この地裁判断について、企業法務に詳しい前出とは別の法曹関係者はこう説明する。
「買収防衛策を正当化できる理由のひとつとして、情報提供の時間を他の株主に与えるというのが重要な点として指摘されています。つまりMOMは、情報提供もなく、判断する時間も十分にないまま、買収者が会社を支配するに相応しいかどうかを株主が判断できない場合が想定されており、それが強圧性の問題と言われるものです。東京機械の場合、市場内でアジア開発が約40%まで短期間に買い上がって、時間的にも余裕がなく、かなり例外的なケースということで、裁判所に強圧性が認められたというのが、法曹界では一般的な理解です」
それでは、今回のコスモHDが繰り出したMOMも東京機械のケースと同様に認められるのか。この法曹関係者は「シティとアジア開発の手法はまったく異なる」としたうえで、こう断言する。
「MOMは、村上氏(シティ)側の主張に真っ向から反論できないコスモHDによる“窮余の策”以外の何物でもない」
どういうことなのか。明日6月20日配信の#2記事では、コスモHDの“奇策”性を指摘する。
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