“悪気”がなくてもパワハラ
したがって、「これってパワハラ?」と考えるときは、「ふつう、どう思うかな?」という視点で判断すれば良い。*3
*3 念のため補足しておくと、法的に相手の主観や状態がまったく問題にならないわけではなく、例えば相手方がうつ病に罹患していて、組織としてもそれを認識していたような場合は、罹患していない場合に比べて安全配慮義務のリスクが高くなる可能性はある。
それにしても、「相手がパワハラと思ったらパワハラ」などという都市伝説的な誤解が、なぜまかり通っているのだろうか? もしかしたら、その理由のひとつには、パワハラは、行為者側がパワハラだと思っていないことがとても多い――ということから来るのではないだろうか。
実際、パワハラ案件で当職が、パワハラ言動をした当の上司に対してヒアリングをしてみると、それはもう「それっぽい言い訳」のオンパレードとなる。
「部下に成長してほしくて厳しく言っただけです。あのままでは会社でやっていけませんから」
「学生気分のままでいては、後で困るだけですからね」
「心を鬼にして、私が悪者になってあげたんですよ」
「あくまで上司としての指導です。パワハラなんて、とんでもない」
あるいは、こんなパターンもある。
「いやいや、確かにちょっとからかいましたけど、飲み会のノリじゃないですか」
「冗談の範疇でしょう。別にパワハラじゃありませんよ」
しかしながら、指導や飲み会のノリだからといって、「業務上必要かつ相当な範囲」を超えた言動はパワハラとなる。いかに出来ない部下であっても、「給料泥棒」「使えない」「就職活動からやり直せ」などと言ってはいけないのである。まして冗談で人格権侵害をするなど、言語道断である。
したがって、会社側としても、上記のようなそれっぽい言い訳を滔々と述べる上司に喝を入れなくてはならないのであるが、その際に、「あんたがパワハラって思ってなくてもパワハラはパワハラなんだよ!」と言いたくて、そんな上司を注意する側のキラーワードが、おそらくこれだ。
「上司であるあなたがパワハラと思っていなくても、現に部下の方がパワハラを受けたと相談してきているんです」
そして、この流れの中で、「あなたがパワハラと思っていなくても部下がそう思ったらパワハラなんですよ」と言ってしまうのではないだろうか。
ここまでお読みいただいたみなさまにはお分かりの通り、正しくは、「部下がそう思ったらパワハラ」なのではなく、「平均的な労働者がそう思ったらパワハラ」なのであるが、言い訳を演説するパワハラ上司に対し、上記のように諭してしまう気持ちはよく分かる。