「内部統制構築義務」違反で取締役に800億円賠償の判決
では、取締役は何のプロなのか。
経営のプロである。
会社、ひいては株主は、企業価値を高めるなどの目的のために、経営のプロフェッショナルである取締役に経営を委任しているのである。
そして取締役がやるべきことをやっていなかったら、事後的に責任を追及される。そのひとつの方法が代表訴訟である。
昨今では、企業で不祥事が起きると、多くの場合に取締役に代表訴訟が提起されるが、これは「(依頼者が事前に指図できない)プロに対しての、事後的な責任追及」の場なのである。
では、取締役が経営のプロとしてやるべきこととは何なのか。
具体的には、法令に従って一定のルールのもとに経営判断を行うこと、なのであるが、このほかのTo Doとして掲げられるのが、先述の内部統制システム構築義務である。
内部統制とは、要はリスク管理である*2。ビジネスにリスクは付きものであるが、時としてそのリスクは顕在化し、不祥事などが発生する。
*2 「内部統制」とは法律用語ではなく一般用語であるため若干多義的なところがあるが、本稿では役員責任訴訟の文脈で説明を行なっている。
そういった時に、経営トップが「私は知らなかった。従業員が勝手にやったことだ」と逃げることがある。この反論は理がないわけではなく、確かに、真に経営陣の与り知らぬところで起きる事件もあるだろう。
しかし、法的に、取締役の「私は知らなかった。だから悪くない」という反論が認められるためには一定の要件がある。
その要件のひとつとは、「そもそも不祥事が起きないような体制をきちんとつくっていたこと」である。つまり、不祥事等防止の体制が適切に構築され、現場で何かあった時に報告が上がってくるような仕組みとなっていたか、ということである。このような仕組みをきちんとつくっていた場合は、仮にそれをかいくぐって不正が起きてしまったとしても、取締役の責任とは言えないかもしれない。
しかしながら、「そもそも対策していませんでしたよね」「そもそも杜撰でしたよね」「報告ルートができていませんでしたよね」という場合、やはりそこは取締役として、「そもそもの体制づくり」を怠ったものとして、責任を負うことになる。これが取締役の善管注意義務の内容としての内部統制システム構築義務である。
代表訴訟において、内部統制システム構築義務違反で取締役が個人的に損害賠償義務を負うパターンは割と多く、古くは、某銀行で、外国の支店の一行員が不正な取引を行い巨額の損失を生じさせた事件において、裁判所は、当該支店の証券の管理方法に不備があったことは取締役の体制構築義務違反であるとして、経営陣11名に約800億円の賠償を命じた事件がある*3。
*3 大阪地裁判決 平成12年9月20日