突然、社長がカミングアウトしたら…
一方、女性については先に指摘した通り、特定の人物に何社もの社外取締役が集中する事態となっている。誤解を恐れずに言えば、「多様性を繕うため、女性の頭数をそろえるため、経験不足の人材が社外取に選任される」ような事態が生じている。しかしながら、管理職をはじめ、執行を担う女性の割合も諸外国と比べて、格段に少ない。
国際会議での登壇者にしても、通例、アメリカでは男女が半分ずつの割合で、年齢層も多様であるのに対し、日本の場合は十中八九が中年から高齢の男性であることがほとんど。見た目からも“多様性”が実現されつつあるアメリカと比べて、日本はダークスーツでグレーヘアーの男性が並び、一見して「同質性」が極めて高い。
確かに、海外の事例を目の当たりにした経験がなければ、日本の異様さに気付かないかもしれない。だが、こうした状況に違和感を覚えない感覚こそが、まさに“昭和の固定観念”そのものと言わざるを得ない。
もっともダイバーシティを考える上では、男女比を均等にするだけでは十分とは言えない。LGBTQ+と呼ばれる性的マイノリティについても考えておかなければならないからだ。
LGBに関しては性的指向の問題であり、あえて明かす必要はないが、T(トランス)の場合はそうではない。トランスとは身体的な性別と性自認が違う場合、性自認に合わせて身体や服装、社会的な性別を変えて生活を送る人々を指す。
入社時からトランス(変更)後の性別で生活しているケースでは摩擦は少ないだろうが、在職中に性別を変える、あるいは性自認に合わせて服装などを変える場合には、現在の日本ではまだまだハレーションが生じかねない状況にある。
事実、経済産業省では、男性職員が在職中に自らの性自認に合わせて“女性職員”となり、女性として勤務する際に使用するトイレをめぐって訴訟となったことは、つとに有名である。
男性職員だった時代を知っている女性職員から、同じトイレを使うのに抵抗を感じるという申し出があったとしてもおかしくはないだろう。そのため、経産省は「所属部署のあるフロアから2階以上離れた場所の女子トイレを使う」ことを求めたが、裁判の結果、“女性職員”がどのトイレでも自由に使えるようにすべきとの命令が下されたのである。
こうしたケースが、今後、さまざまな企業や職場で出てくる可能性を予見しておく必要がある。
仮に「専務までは男性としてスーツ姿で出社していたが、社長就任を期にカミングアウトし、性自認に合わせて女性の服装、容姿で出社する」という状況も決して絵空事ではない。この時、「カイシャ」はどのような対応を取るべきなのか。
ダイバーシティで諸外国に大きく後れを取っている日本。真のダイバーシティを目指すのであれば、欧米人偏重の外国人や一部の女性の登用だけを考えるのではなく、あらゆるケースを想定してシミュレーションを行うことが必要になろう。
取材・構成=梶原麻衣子