ニトリ、キヤノン、ユニクロ、ソフトバンクのケース
家具販売大手ニトリホールディングス(HD)創業者の似鳥昭雄会長が、2月1日から事業会社のニトリ社長に10年ぶりに復帰し、会長と兼務することになった。
「ブルータス、お前もか」
1月にこの発表に接し、そうした思いを抱かざるを得なかった。というのも、これまでにもカリスマ経営者が一度は社長の座を後進に任せて自身は会長職に就いたものの、現場に舞い戻ってくる例は珍しくなかったからだ。
その筆頭というべきは、キヤノンの御手洗富士夫氏であろう。従弟の死去を受けて1995年に社長に就任した御手洗氏は2006年3月、一時的に会長兼社長CEO(最高経営責任者)となり、経団連会長就任と合わせて同年5月には社長職を譲って会長CEO、12年には会長兼社長CEOに復帰。そして16年、社長職を譲って会長CEOになったものの、20年には再び会長兼社長CEOと2度の返り咲きを果たしている(社長就任は3度目)。
また、ユニクロ創業者の柳井正氏も社長に返り咲いて久しい。柳井氏は2002年に一度、持ち株会社のファーストリテイリング社長の座を玉塚元一氏(現ロッテHD社長CEO、元ローソン社長・会長)に譲って会長兼CEO(最高経営責任者、当時)となったが、05年に社長に復帰。現在も会長兼社長の座にある(ユニクロ社長職は23年9月に塚越大介氏が就任し、現在、ユニクロでは会長兼CEO)。
こちらは復帰とは異なるが、ソフトバンクグループの孫正義氏も似たような状況だ。孫氏はかねて自身の社長退任を60歳前後と公言し、2014年には米グーグルからニケシュ・アローラ氏を迎えて「私より10歳若い。最重要な後継者」と言って憚らなかった。しかし、還暦を1年前に控えた16年、「欲が出た」と前言を撤回、66歳の今に至るまで会長兼社長執行役員を続けている。片やアローラ氏はソフトバンクグループを去った。
確かに、後継者の健康上の問題など種々の理由があるにはある。ただ、こうした“返り咲き”は特に創業者にありがちな振る舞いとはいえ、厳密には「会社の私物化」の一類型というべき側面がある。
なぜこうしたことが起きるのか。創業者は会社が大きくなり、株式上場して「公的な存在」になっても、自らの意識を変えられないことが往々にしてある。つまり、上場することでマーケットから資金を得、ステークホルダーが飛躍的に増えた状態でありながら、創業者の意識としてはいまなお「オレの会社」なのだ。「オレの会社」だから「オレが現場を仕切って何が悪い?」というわけだが、ならば上場などせず、あくまで「オレの会社」を貫き通すべきだろう。
もっとも、今日においては非上場企業でも、大会社は上場企業レベルの社会的責任を果たさなければならなくなっている。顧客や従業員を守る必要があるからだ。