2023年企業・組織不祥事からあなたが学ぶべきこと【ガバナンス時評#12】
会見で求められるのは「誠実性」と「倫理観」で、法的解釈ではない
もうひとつは、記者会見に際して企業・組織が依頼するコンサルタントやアドバイザーの問題である。昨今、どんな組織であれ会見を開く際にはコンサルタント、特に法律の専門家である弁護士に助言を仰ぐケースが多い。
しかし、ここに誤解の種(タネ)がある。まず、“法律専門家”は曲者だ。彼らは法律家として、不祥事とされた問題が法的に問われる可能性があるのか、特に刑事責任が問われるか否かを最も重視する。そのため、会見に際しても刑事罰を受けないよう、いわば責任回避の答弁を準備することになる。これは法的なリスクの回避という面では確かに有効だが、社会、平たく言えば、世間に対する説明という点では、むしろ反感を買い、マイナスの影響を生むことが多い。
なぜなら、不祥事企業を見る世間の目は「法的に問題があるのかどうか」でなく、「起こしてしまった問題について、この組織のトップの面々は真摯に反省しているのか」「顧客・消費者として、この企業を許していいのか」「生まれ変わる可能性を信じていいのか」という誠実性や倫理感、つまり、法律よりもある意味、高次の視点に向けられているからだ。
これが現代の民主主義社会で最も求められている考え方である。旧ジャニーズの問題が一芸能事務所社長の横暴な振る舞いでは済まされず、海外メディアから性加害(性被害)、そして人権侵害という視点で報じられ批判されたのも、こうした流れを受けてのことだ。
他社の不祥事を“我が事”としてとらえる姿勢
長時間労働やブラック企業などに対する批判も近年、高まっては来ているが、まだまだ企業や組織のトップの認識は、本当の意味では刷新されていない。しかも、アドバイスする側のコンサル会社や法律事務所も同様の認識レベルでとどまっていることが多い。「人権デューディリジェンスに関心の低い企業は取引自体が忌避される」というところまで、国際社会(もちろん西側先進国においてだが)の意識は変わってきていることを理解しなければならない。
これは情報隠蔽の問題にも共通する。インターネットによる情報革命が起きて、四半世紀近くが経過している。誰もが情報発信者になれる時代で、あらゆる情報がデータとして記録されている現代において、情報を隠蔽し通すことはもはや不可能に近い。昔なら当事者が声の上げようもなく、組織が隠蔽できた情報も、もはや隠し通す手立てはない。そのことを前提に、情報を管理、発信する必要がある時代なのだ。
ところが、内部でのやりとりを表沙汰にすべきではない、さらには秘匿できると今も考えている企業・組織の幹部は少なくないようだ。これも情報に対する認識について、刷新ができていないために起きる事実誤認であり、アメリカンフットボール部員の違法薬物所持をめぐる日大の沢田康広副学長(当時)の対応は、まさにその陥穽にはまったものと言える。
その意味で言えば、こうした不祥事企業や組織が身をもって教えてくれる「組織内の風通しの悪さが不祥事を拡大させる」ことや「初期対応の失敗事例」「情報公開のあり方」は、社会的にこれ以上ない学習材料となる。各組織は、他社、あるいは他の法人で起きた不祥事を“我が事”としてとらえ、今一度社内のあり方を見つめ直すべきなのである。
取材・構成=梶原麻衣子
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