日大だけではない「学校法人のガバナンス不全」【ガバナンス時評#11】

副学長なら「事件をもみ消せる」の背景

学校法人に求められるガバナンス体制とは、法人組織における健全な業務執行体制と、そうした業務執行体制に対する公正な監視・監督の区分けが行き届いて初めて成立するものだ。しかし日大に限らず、教育者が悪いことをするはずがないという「性善説」で運営されている学校法人には、監視機能がそもそも備わっておらず、いざという事態になっても自浄作用が働かないことが珍しくない。

時には、高いレベルの監視や監督を忌避する口実として、「大学の自治」や「学問の自由」が持ち出されることさえある。だが本来は、「大学の自治」や「学問の自由」を完遂するためにこそ、厳格な監視・監督が必要なのだ。ここでも、「ガバナンスと言えば、身内の醜聞を外に出さないこと」「情報を上に上げず、大事にしないこと」だというガバナンスに対する根本的な誤解が、誤った対処を生んでいると言わざるを得ない。

危機管理学部もスポーツ科学部もあるのだが……(東京・三軒茶屋)

日大のアメフト部の学生による大麻所持が持ち物検査で発覚した際、監督が「澤田(康広)副学長に先に見つかってよかったな」と声をかけたことが被告学生の初公判で明らかになっている。これだけでも驚きだが、監督の発言を受けて、被告学生が「もみ消してもらえるのだと思い、少し安心した」と証言したのはさらに衝撃的だ。

日大法学部、大学院法学研究科を卒業し、検事を経て副学長として日大に戻った澤田氏なら、「本来は刑事事件になる大麻所持でさえ、学生のため、学校のためにもみ消せる力を持っているのだ」と学生に認識されていたのである。あまりに良識を欠いた短絡的な考えと言うほかないが、これほどまでに被告学生の認識を歪ませた背景には、日大のガバナンスに対する誤った認識や姿勢があったからと言えよう。

私学法改正も、学校関係者の“巻き返し”

学校法人のガバナンスに対する姿勢について言えば、日大に限らず以前から問題が指摘されてきた。そこで文部科学省は2019年12月、「学校法人に関するガバナンスに関する有識者会議」を、さらに2022年7月には「学校法人ガバナンス改革会議」を設置し、私はいずれも委員を務めた。

当時も学校法人のガバナンス不全がもたらした不祥事が相次ぎ、そのため、改革会議では私立学校法の改正を射程に、望ましい改革案を提言したのである。とりわけ、学校法人において、それまでは諮問機関に位置付けられていた評議員会を、最高監督・議決機関に位置付けることで、執行機関である理事会に対する監督機能の実効性を確保できるものにすべきと提言した。

具体的な権限や位置づけがなければ、評議員は単なる理事長のアドバイザーになってしまうからだ。これは株式会社における社外取締役の位置づけと同様と言える。単なる助言者では本来期待される機能を果たすことができないためだ。

こうした報告に基づき、改正私学法は2023年4月に可決され、2025年4月1日から施行されることとなっている。改正私学法では、他にも評議員について「理事と評議員の兼職禁止」「監事の選解任は評議員会の決議によって行い、役員近親者の就任を禁止」、大学・高等専門学校を設置する大臣所轄学校法人等では、「会計監査人による会計監査の制度化」などが盛り込まれ、遅々とした感じであるが着実に改革は進められてきているといえる。

いずれも必要な制度改革だが、この議論の際にも、相変わらず学校関係者からの“巻き返し”があったことを申し述べておきたい。こうした法律の移行期間にも日大のような問題が発覚したのは残念極まりないが、ガバナンス意識が欠如している学校法人は、何も日大だけではないのだ。

取材・構成=梶原麻衣子