【米国「フロードスター」列伝#7】ヘッジファンドトレーダー“損失補填”で嵌まったポンジスキーム

本誌「Governance Q」と公認不正検査士協会(Association of Certified Fraud Examiners=ACFE、本部=米国テキサス州) の特別連携企画「アメリカ『フロードスター』列伝」第6回「会計担当者の不満と内部統制の欠如が生んだ130万ドル横領」 に続く、第7回をお届けする。本編の主人公であるフロードスターは、元大手証券会社ブローカーで、のちにヘッジファンドのマネージャーになったジェームス・ブランドリーノ。

【発生年】2003~11年
【被害額】約375万ドル(当時のレートで約3億~4 億3500万円)
【罪種】郵便詐欺

ジェームス・ブランドリーノは金融業界での成功を夢見てキャリアを積み、ついには自身のヘッジファンドを立ち上げるに至った。しかし、立ち上げ早々に取引で損失を出してしまう。出資者がファンドを引き上げることを恐れ焦った彼は、そんな中、ある広告を目にする――。

金融トレーダーのブランドリーノの犯罪の手口を紐解くと、損失を補填しようとした初期の不正から徐々にエスカレートしていったプロセスが窺える。本連載企画第3回「偽ファンドマネージャー妻の片棒を担いだ不正共犯“主夫”の決断」 でも“ポンジスキーム”について解説したが、彼もまさにそのスキームによって損失補填を試みた。不正は8年間にわたって続いたが、最終的には380万ドルもの損失を出し、60人以上の投資家が被害を受けた。

本連携企画は、不正対策を使命とする世界的組織ACFEのアメリカ本部の全面協力によるものである。ACFEは日本をはじめ全世界200近い支部で構成され、9万人以上の不正対策分野のエキスパートである会員を擁し、不正防止・早期発見に取り組めるよう、さまざまな教育・支援プログラムを提供している。

その一環で、「フロードスター」と呼ばれる、有罪判決を受けた不正実行者に報酬を支払わない方針でインタビューや講演を行い、カンファレンスやセミナー・ウェビナーなどを介して、不正対策教育プログラムに組み込んでいる。

今回もこれまでと同様のアプローチで、ACFE本部が「フロードスターとの会話」(Conversation with a Fraudster)と銘打ったインタビューをもとに、ブランドリーノのストーリーをお送りする。

なお、本記事にある「インタビュー」とは、上記インタビューを指す。そして、試みレベルではあるが、1950年代のアメリカの犯罪学者ドナルド・R・クレッシーの提唱した「不正のトライアングル」にも照らし合わせてみた。