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【米国「フロードスター」列伝#6】会計担当者の不満と内部統制の欠如が生んだ130万ドル横領

文武両道と会計への道

ライアン・ホマは、米国中西部の北部、五大湖のうちスペリオル湖とミシガン湖に隣接したウィスコンシン州にあるグリーンベイで生まれ育った。同地はアメリカンフットボールの強豪「パッカーズ」の本拠地としても知られる。明るく活発な子どもだったホマは、いわゆる“文武両道”で、スポーツ、特に野球に熱中する一方、数字や数学に強い関心を示していた。学生時代を通して常に成績良好であった彼は大学に進学し、本格的に会計に興味を持ち始めた。

大学で会計学を専攻したホマは、すぐにその才能を発揮した。数式に魅了され、それを使って問題を解決することに喜びを感じ、大学時代を通して優秀な成績を修めた。卒業後は、ウィスコンシン州の地元企業で小さな会計事務所を開業したが、その傍らラケットボール選手としても活動を続けていた。

しばらくの間、ラケットボールのプロ選手として活動しつつ、ミネソタ州の州都セントポールにあるU.S.バンクを皮切りに、会計職で転職を繰り返し、キャリアを積み上げていった。

2007年、ホマが33歳の時に、生まれ故郷のグリーンベイにある会社に入社したことで、その後の運命が大きく変わる。そこで、彼は会社の経理・財務管理を一手に担い、小切手の発行や帳簿の管理、監査の調整など、多くの権限を持つようになったのだ。しかし、入社後半年以内で、彼はその会社に不満を抱くようになる。

会社への不信感

ホマの勤務先の企業は、地域では製造業の大手で、在籍当時は約300人の従業員を抱えていた。当時、年商は4800万ドル(約56億円超)から6000万ドル(約70億円)に増加と、成長著しい会社であった。

しかし、事業が大きく成長する段階にもかかわらず、経営陣は「家族経営の小売店のように運営したがっていた」とホマは懐述する。例えば、与信限度額1000万~1400万ドルで大規模な融資を受ける場合、銀行から定期的な財務報告が求められるものなのだが、経営陣はそのような審査や銀行による「管理」を敬遠していた。銀行借入やリースを利用したい一方で、経営の主導権を手放したくないという経営陣の姿勢に、ホマは入社当初から違和感を覚えていた。

また、彼は経理・財務業務を任されていたが、外部の会計事務所が貸借対照表を確認し、OKが出ればそれ以上問題視しない、という監査の甘さにも驚いたという。「銀行に知られなければいい」と見做す風潮があり、会社の会計処理に関して、透明性が確保されていないことに憤る一方、その死角に気づいたのだった。

他にもホマが納得できないことがあった。会社は収益が5%減少しているにもかかわらず、新たに15人を採用するなど、財政を考慮しない採用計画を実施していた。さらに、特定の社員への自家用車通勤手当てや、300人の従業員のうち90人にのみ社用携帯電話が正当な理由なく支給されている……といった曖昧で不平等な支出が多数あった。

このような不満を抱え、ホマは入社して2カ月も経たないうちに、この仕事は自分には向いていないと考えるようになった。しかし、地元では評判の良いこの会社で、幹部直下の階層にあるポジションに就いていることもあり、辞職するには惜しい。

そのような葛藤の中で、ある幹部との関係にも問題を抱えていた。その人物はホマを直接採用した担当者でなかったこともあってか、入社後すぐに不和が生じた。気の合わない上司のもと、ホマの職場でのストレスはさらに増大していった。

一方、プライベートにおいて、ホマは家族に対して経済的な豊かさを与えなければならないという信念を持ち、プレッシャーに苛まれていた。周囲の友人、同窓たちと比べて「自分は遅れを取っている、その遅れを取り戻さなければ……」との思いを募らせていたという。

このように、会社の経営方針や職場環境、そして家族に対する責任感からくる経済的プレッシャーは、ホマにとって次第に精神的な負担となっていく。

今回は、本誌「Governance Q」と公認不正検査士協…
増幅するストレスと不正の始まり ホマは入社直後…
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