【米国「フロードスター」列伝#5】親友弁護士コンビの「史上最長インサイダー事件」を誘発した“大手ローファーム”のセキュリティ環境

友情が切り結んだ「インサイダー取引」の手口

1994年から2008年までの約15年にわたり、グルモフセクとコーンブルムは、M&A(企業買収・合併)に関する未公開情報を悪用した株式取引によって巨額の利益を得た。つまり、インサイダー取引である。

94年から95年にかけて、グルモフセクはコーンブルムから、カナダ企業の合併に関する情報を少なくとも2件入手。最初の取引ではたった180ドルの利益しか得られなかったものの、グルモフセクは取引をさらに続ける決意を固めた。

では、どのように二人はこのインサイダー取引を長期にわたって継続できたのか。

彼らは役割を分担し、緊密な連携をとっていた。まず、インサイダー取引に欠かせない重要情報について、コーンブルムが収集役を担った。最大手の法律事務所に所属するコーンブルムは、ニュースリリースに先立って、上場企業に関する情報を得られる機会があった。

企業に関する情報が洩れる瞬間を常に狙っていた彼は、自身が担当している案件だけでなく、昼食時の廊下やオフィスでの不注意な会話などからも未公開情報を得ることが多かったという。また、法律事務所のセキュリティの甘さもあり、所内のメモを読んだり、コンピューターの記録にアクセスしたりすることで、内部情報を収集した。

次に、情報の共有においても彼らは緊密に連絡を取り合っていた。

97年に弁護士を辞めたグルモフセクは、短期間、映画学校に通いつつ、毎朝4時にコーンブルムにモーニングコールをし、聞き出した重要情報をもとに“フルタイム”でインサイダー取引に勤しんでいた。ちなみに、コーンブルムからグルモフセクに連絡する際には公衆電話を利用するという念の入れようのうえ、二人は毎週食事をともにし、定期的に打ち合わせをしていた。

そして、グルモフセクは、自身のみならず友人や親族名義のカナダの口座を多数用意。コーンブルムから企業の機密情報を入手してはインサイダー取引を繰り返し、やがて短期間で数百万ドルの利益を得るようになった。

その際、自分たちの不正行為が発覚しないよう、表面的に合法的な取引も織り交ぜ、インサイダー取引が目立たないよう工夫していたという。

拡大の一途たどったインサイダー取引

当初は小さな取引にとどめていたものの、次第にその規模は大きくなり、取引の痕跡を隠すために、バハマやケイマン諸島、スイスなどのオフショア(租税回避)地域に開設した口座を利用するなど、複雑な資金移動を行っていた。他にも、証拠を残さないようオプション取引や、ラスベガスでのスポーツ賭博などによるマネーロンダリング(資金洗浄)も行っていた。

このようにして、彼はコーンブルムからの未公開情報を利用し、M&Aの発表に先立ち、米産金企業グラミス・ゴールド、米文具・オフィス業のオフィス・デポ、米ウェルズ・ファーゴ銀行などといった大手上場企業の株式を売買し、利益をコーンブルムと分け合った。その個別取引回数は120回以上、不正取引は46件以上に及ぶ。

「当時、自分がやっていることの違法性を十分に理解していたが、それでもやめることはできなかった」

グルモフセクはそう語る。利益が大きくなればなるほど、その達成感は増し、逮捕されることへの恐怖も薄れ、次第に「みながやっていることだから」と、自らを正当化するようになったという。