【米国「フロードスター」列伝#5】親友弁護士コンビの「史上最長インサイダー事件」を誘発した“大手ローファーム”のセキュリティ環境

将来有望な若き弁護士と“同僚の高級車”

ジョセフ・グルモフセクは、カナダ最大の都市トロントが州都のオンタリオ州に生まれ、学問を重んじる家庭に育った。勉強に励む真面目な少年であった彼は、家族の期待に応えて優秀な成績を修め、1990年、世界的に名高い同州のヨーク大学オズグッド・ホール法科大学院(ロースクール)に進学。そしてすぐに、同じく弁護士を目指すギル・コーンブルムに出会い、たちまち意気投合し、親友となる。

94から95年、グルモフセクは夏季インターンとして大手法律事務所で働くこととなった。そこで、同期のインターンが白いドライビングシューズを履いているのに気づく。「自分が“取り組んでいた取引”で儲けたカネで車を買ったからだ」というその同期の言葉を耳にし、それをグルモフセクは事務所内で聞いた“噂”の裏付けと捉えた。

その噂とは、クライアント企業のファイルから得た内部情報に基づいて株取引をしている司法修習生がいる――というものだった。

唯一無二の親友コーンブルムとの共謀

この話を、グルモフセクはロースクールの時代からの親友コーンブルムに伝えた。そして、二人はどちらからともなく、自分たちも同様に“成功”できるのではないかと計画を立て始める。

コーンブルムは、企業法務弁護士として将来を渇望された人物であった。後にサリバン&クロムウェルやドーシー&ホイットニーといった、アメリカ屈指の大手国際法律事務所にも所属することとなる彼は、着実にキャリアを積んでいた。

プライベートでも、二人は固い友情で結ばれていた。

例えば、コーンブルムはグルモフセクの結婚式のベストマンであった。ベストマンとは、新郎の介添人であり、新郎側の立会人であるアッシャーのリーダーを務める男性のことである。結婚式の準備のサポート役であり、式では結婚指輪を運び、披露宴では司会役やスピーチもする。

この大役は、親しい友人の中でも特に信用できる大親友が選出されるものである。このように、グルモフセクはコーンブルムには全幅の信頼を寄せ、親密な関係を築いていた。

自分たちが協力することで利益が生み出せる。そう結託した二人は計画を企て、違法行為に手を染め、そして一度足を踏み入れた不正の世界から抜け出すことができず、深みにはまっていったのだった。