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【米国「フロードスター」列伝#4】シティグループで25億円横領した“ジャマイカから来た元少年”

シティグループ巨額横領事件と「不正のトライアングル」

フォスターの不正行為によるシティグループの巨額横領事件も、クレッシーの「不正のトライアングル」の3要素(動機、機会、正当化)に当てはめてみたい。

「不正のトライアングル」は3つの要素、①不正行為を実行する動機(プレッシャー・インセンティブ)、②不正行為の実行を可能あるいは容易にする環境としての機会、そして➂不正行為の実行を積極的に是認しようとする主観的事情である正当化、で構成される。

(1)動機

不満と復讐心

「部下が私より1万ドルも多く給料をもらっているのを見て、私は衝撃を受けた」

「純粋な復讐だった。私の性格上、もし誰かが私を叩けば、私は彼を倒して二度と戻ってこられないようにする」

フォスターの発言からは、給与格差と自分が評価されていないという不満が強い動機となり、不正行為に走ったことが分かる。特に、彼はインタビュー中で「復讐」という言葉を何度も使っており、この心理状態が彼を不正行為へと突き動かしたことが示唆されている。

(2)機会

職務上の立場と経験

「送金システムを使えば、巨額の取引を非常に簡単に操作できた。私ともう一人の承認で最大10億ドルまで送金できた」

そう語るように、フォスターはシティグループの内部システムを熟知しており、その弱点を巧みに利用した。しかも、「私が送金書類に署名すると、誰も疑わず、誰も確認しなかった」というように、それまでの勤務態度や経験による銀行内での彼に対する信頼も不正を行う上で“追い風”となった。

監査の不備

またフォスターは、日常的に数億ドル規模の取引が行われている環境では、小額の送金が見逃される可能性が高いことを理解していた。「監査が見落としやすい小額の送金を繰り返し、不正行為を隠した」と語るように、監査の不備も手伝って不正が成立した。

(3)正当化

自分に見合った待遇の補填

「自分がこのお金を使って何かを手に入れる資格があると感じ、これは報酬だと考えた」

「自分がここで成し遂げたことに対して、このくらいの報酬は当然だと思った」

フォスターがインタビューでこう語るように、詐取したカネを“報酬”として捉え、不正行為を正当化していたことが裏付けられる。彼は自分の行動が倫理的に間違っていると理解していたものの、職場での不公平な待遇への“補填”に相当するとし、不正行為をとらえていた。

試みにフォスターの犯した横領事件を「不正のトライアングル」に当てはめてみたところ、彼の感情がこの事件にただならぬ影響を及ぼしていることが見えてくる。嫉妬心、不満、復讐心といった負の感情に支配され罪を犯すケースは数多あるが、フォスターの事件においても然り、である。

人間の感情に突き動かされた行動を抑止することは非常に難しい。しかし、不正を犯すことが可能となる環境、すなわち「機会」については、改善する余地はきっとあるに違いない。

ACFE本部リソース

ACFEアメリカ本部によるフォスターへのインタビューは、オンデマンド動画で視聴(有料)できる。

・Conversation with a Fraudster: Gary Foster ウェビナー(オンデマンド)ACFE Ethics CPE: 2  *すべて英語
https://www.acfe.com/training-events-and-products/self-study-cpe/product-detail?s=Conversation-with-a-Fraudster-Gary-Foster

・YouTube ACFE公式チャンネル(英語)

My Wall Street Heist: The Story of Gary Foster – Trailer 上記ウェビナーのトレーラー動画(約2.5分)*すべて英語

また、2020年に、フォスターは第31回ACFEグローバルカンファレンスの「フロードスター」としてウェブ登壇した。その模様を伝える記事と、登壇時の約3分の動画付き記事もある。

・2020年開催 第31回ACFEグローバルカンファレンス ウェブサイト関連記事 *すべて英語
https://www.fraudconferencenews.com/home/2020/6/24/betrayed-bank-assistant-vice-president-embezzles-22-million-as-payback

・2020年開催 第31回ACFEグローバルカンファレンス ウェブ登壇時動画(約3分) *すべて英語
https://www.fraudconferencenews.com/home/2020/6/24/fraudster-video-gary-foster

(隔週連載、#5は2025年1月10日公開予定)

発覚と出頭 2010年、シティグループが彼の不…
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