9.11後の残金の行方と不正の手口
フォスターによると、シティグループでは、当時、取引に関する資金が未確認のまま残る場合、その「未確認資金」を「未整理口座」という特別な口座に一時的にプールしていた。これは、シティグループの内部的な口座であり、顧客や個別のクライアントの資金ではなく、銀行内の取引に関連する資金を管理するために使用されていたという。
さらに、未整理口座の残高は通常1回あたり100万ドル未満にしておくことになっており、小額の未確認資金はすぐに帳簿から消去して処理されることが一般的だったそうだ。この資金は、取引上の混乱やエラーによって一時的に発生するものであり、特に9.11のような大規模な緊急事態が発生した際には大混乱が生じるため、未整理口座に多額の残高が残ることがある。
フォスターによると、9.11後、取引の混乱は続き、多くの銀行間で、約77万2000ドル(約8950万円)もの資金移動が未整理のままになっていた。彼はいつものように、上司に対して「この未整理口座の金額は問題ない」と報告し承認を得て、帳簿からその金額を消去する処理を行った。
しかし、この処理後、フォスターはその資金を自分の個人口座に移すことを決断する。
その際、シティグループが行う取引上、「通常の送金は数百万ドルから数億ドル規模で行われるため、小額の取引は監査の目に止まりにくい」と内部事情に通じていた彼は、通常の取引の中に自分の不正送金を紛れ込ませ、月の半ばに小額ずつ自分の個人口座に送金した。
彼は「自分がこの問題を解決したのだから、この資金は自分のものだ」という、なんとも身勝手な思い込みで自身を“正当化”したのだった。
この手口が罷り通った要因は他にもあった。フォスターのシティグループ内での権限である。シティグループでは1億ドル未満の送金には行内で2名の承認が必要だったが、彼は、最初に自分が送金の書類に署名し、同僚には口頭で承認を依頼していた。同僚たちからの信頼が厚かったため、彼が署名した送金に対して疑いを持たれることはなかったという。
また、送金の際、フォスターはシティグループのシステムに自身のJPモルガン・チェース銀行の個人口座番号を登録した。この口座番号をシステム内にいったん登録すると、その情報はその後も使い回しが可能なため、再度設定し直す手間もなく、効率的に不正送金を行うことができるからである。
罪の意識と「神からの贈りもの」
最初に不正送金を行った後、フォスターは罪の意識を感じ、しばらく欺手した資金に手を付けなかったという。あたかも自分の一部が、自分の他の部分を裏切っているかのように感じ、1年半の間、不正送金はしなかったそうだ。しかし、次第に不正行為に対する抵抗感が薄れ、さらに多くの送金を行う。
なぜ抵抗感が薄れたのか。
それについては、かねてより抱いていた「若くして死ぬ」という、強迫観念ともいえる恐れがあったと彼は自己分析する。幼少期に大切なペットを失ったことが要因で、自らも短命になると思い込んでいた。そのため、「今すぐ成功し、贅沢を享受したい」という欲望に駆られたという。
その贅沢とは、例えば、世界中を旅することである。不正に得た潤沢な資金をもとに、子育てをしながら旅行することを思いついた彼は、詐取した資金を自分の「報酬」と捉えるばかりか、ひいては「神からの贈りもの」だとすら思い込んだ。その極めて自分勝手で理不尽な思い込みから、違法な手段で大金を手に入れることを正当化し、不正行為を拡大させ、結果的に長期間にわたる不正行為を続けたのだった。