今回は、本誌「Governance Q」と公認不正検査士協会(Association of Certified Fraud Examiners=ACFE、本部=米国テキサス州)特別連携企画「アメリカ『フロードスター』列伝」第3回「悪妻の片棒を担いだ不正共犯“主夫”」に続く第4回目。
ジャマイカの小さな村からニューヨークの金融界へと飛躍し、アメリカ四大銀行の一角、シティグループの銀行員となった男が主人公である。真面目で信頼されていた当時35歳の男は、その裏では自らの欲望と嫉妬の念に飲み込まれ、銀行詐欺に手を染めていったのだった。その名はゲイリー・フォスター。
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【発生年】2003~10年
【被害額】約2200万ドル(当時のレートで約19億3000万~25億5000万円)
【罪種】銀行詐欺
シティグループでフォスターが手にした役職は、財務部門のアシスタント・バイスプレジデント(VP)という、日本の課長や部長補佐等のクラスに相当するポジション。彼は自身の立場を利用し、銀行の未整理口座を操作し、表向きは「普通の取引」と見せかけ、不正送金を次々に実行した。その手口は、銀行の内部・外部監査の目をくぐりぬけ、誰にも気づかれることなく、6年超という長期間にわたって続けられた。
このケースは、巨大金融機関でさえ、個人の欲望と権力への執着により、どれほど容易に内部から崩されるかを示した一例といえる。すなわち、金融機関における内部統制の重要性と、システムの脆弱性を利用した犯罪の危険性、そして、現代の金融システムに潜むリスクの本質を浮き彫りにしている。
本特集は、不正対策を使命とする世界的組織、ACFEアメリカ本部の全面協力によるものである。ACFEは日本をはじめ全世界200近い支部で構成され、9万人以上の不正対策分野のエキスパートである会員を擁し、不正防止・早期発見に取り組めるよう、さまざまな教育・支援プログラムを提供している。
その一環で、「フロードスター」と呼ばれる、有罪判決を受けた不正実行者に報酬を支払わない方針でインタビューや講演を行い、カンファレンスやセミナー・ウェビナーなどを介して、不正対策教育プログラムに組み込んでいる。
本回もこれまでと同様のアプローチで、ACFE本部が「フロードスターとの会話」(Conversation with a Fraudster)と銘打ったインタビューをもとに、リヴォルシーのストーリーをお送りする。
なお、本記事にある「インタビュー」とは、上記インタビューを指す。そして、試みレベルではあるが、1950年代のアメリカの犯罪学者ドナルド・R・クレッシーの提唱した「不正のトライアングル」にも照らし合わせてみた。