【米国「フロードスター」列伝#3】偽ファンドマネージャー妻の片棒を担いだ不正共犯“主夫”の決断
リヴォルシー夫妻の投資詐欺事件と「不正のトライアングル」
これまで同様、ここで試みに、ドナルド・R・クレッシーの提唱した「不正のトライアングル」に当てはめてみたい。
「不正のトライアングル」は3つの要素、①不正行為を実行する動機(プレッシャー・インセンティブ)、②不正行為の実行を可能あるいは容易にする環境としての機会、そして➂不正行為の実行を積極的に是認しようとする主観的事情である正当化、で構成される。
「家庭の経済的安定を保つことと、妻リンダとの関係を維持することにありました」
(1)動機
経済的安定
リヴォルシーは自身や家庭の経済的ゆとりを保つため、自分の資金を妻のヘッジファンドに投資し、さらに家族や友人にもそのファンドへの投資を促していた。
妻との関係維持
彼は妻リンダとの関係維持という理由により、ヘッジファンドマネージャーである彼女のビジネスに協力し、自らも出資した。デューディリジェンスを行うこともなく、彼女を全面的に信頼していた。
(2)機会
妻の社会的地位
「妻には、ヘッジファンドマネージャーとしての地位を利用し、投資家から資金を集める機会がありました」と彼が言うように、妻は、ヘッジファンドマネージャーという肩書、メリルリンチやモルガン・スタンレーでの職務歴、さらにはオクラホマ大学卒、といった、輝かしい職歴や学歴、そして社会的地位の詐称により、夫であるリヴォルシーや他の投資家に出資させた。
彼の会計知識
彼は妻のファンドが配当金を支払うことができず立ち行かなくなると、自身の会計知識を活かして資金の流れを管理し、配当金の分配に関与していた。インタビューでも「私は正式には妻のビジネスに関わっていませんでしたが、自身の資金を投資し、最終的には新しい投資家からの資金を既存の投資家に配当金を分配する役割を担っていました」と語っている。
(3)正当化
家族のための行動
「自分の不正行為はいわば家族のためであり、問題を解決するための一時的な措置だと自己正当していました」という自己分析の通り、彼は帳尻が合えば良いと考え、家族のために現状を維持するために出来得る最善を尽くしていると、ポンジスキームの実行を正当化した。
妻に対する絶対的な信頼感
多額を投資する際、本来なら投資先の企業の調査を行うところ、「リンダの説明を信じ、詳しく調べることをしませんでした」と、妻を信用するがあまり実態調査を怠っていた。
*
不正を見逃すことがどれほど深刻な結果を招くか――。妻リンダのファンドに不正の兆候を感じながらも、リヴォルシーは「家族を守るため」という思いから、事実に目を背ける道を選択した。
その結果、彼自身が不正行為の一部となり、さらには家族全体をも危険に晒す結果を招いたのだった。彼の心情は「家族を失いたくない」「自分が解決するしかない」という信念に支配され、その信念が彼の倫理的な判断を誤らせたようだ。
不正防止の観点からこの事例を見ると、まず、愛情や責任感が誤った判断を助長しうることを理解する必要がある。不正を防ぐためには「見逃さない姿勢」と「透明性を確保する仕組み」が欠かせない。
たとえ身近な人物であっても、疑念を抱いた際には透明な調査や客観的な意見を求めることが必要である。リヴォルシーの一件は、不正の兆候を見逃した結果の典型例である。
彼のケースは、愛や信頼、責任感という一見、肯定的な要素が不正を助長する要因となったことを示している。特に、親密な間柄の中での不正は発見が難しい。
ACFE本部リソース
ACFE米国本部によるリヴォルシーへのインタビューは、オンデマンド動画で視聴(有料)できる。
・Conversation with a Fraudster: William Livolsi ウェビナー(オンデマンド)ACFE Ethics CPE: 2 *すべて英語
https://www.acfe.com/training-events-and-products/self-study-cpe/product-detail?s=Conversation-with-a-Fraudster-William-Livolsi
(隔週連載、#4は2024年12月20日公開予定)
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