【米国「フロードスター」列伝#2】国際サイバー犯罪の元祖インターネットのゴッドファーザー
シャドウ・クルーの崩壊
シャドウ・クルーは急速に拡大し、サイバー詐欺の中心的役割を果たすようになる。ちなみに、サイバー詐欺は「情報の抜き取り」「情報の売買」「現金化」(マネーロンダリング)と3つの分野に分けられるという。
すべてのフィールドにおいて精通しているプロを見つけることは非常に難しいが、各分野のエキスパートの知恵と経験を組み合わせることにより、国際的な組織犯罪は簡単に実行される、とジョンソンは指摘する。
しかし、米国シークレットサービスの捜査局(注:シークレットサービスは大統領の護衛だけではなく、ID偽造・詐欺商法・架空証券の捜査や連邦令状の執行、現行犯逮捕なども行う)は徐々にシャドウ・クルーの活動に目を向けるようになり、ついに2003年、シャドウ・クルーに対する大規模な捜査「ファイアウォール作戦」を開始した。
この作戦は、ハンドルネーム「クンバジョニー」で知られるキューバ人共犯者が見つかったことが突破口となる。クレジットカード詐欺で逮捕されたその男は早々に当局の情報提供者に転向し、情報収集、シャドウ・クルーやその利用者の監視、他メンバーを逮捕する方法などにおいて当局に協力した。
その結果、同年10月に同局はこのサイト関係者33人を逮捕し、シャドウ・クルーは壊滅した。逃亡したジョンソンは最重要指名手配者となったが、ついに05年2月、別の容疑により、南東部ノースカロライナ州で逮捕された。
不正再び
ところが、逮捕後、シークレットサービスとの取引に応じ、ジョンソンは情報提供者となる代わりに釈放される。タイトルにある「元祖インターネット・ゴッドファーザー」とは、シークレットサービスが付けた彼のあだ名である。
彼を中心に30名前後が連携して、国境をまたぎ不正な手口で大金を詐取する様から、彼をマフィアのボスになぞらえたようだ。今あるサイバー犯罪の初期段階において、彼の果たした重要な役割が認識され、この異名が与えられのだが、彼はまたしても、自らの知識と経験を新たな不正に“活かす”こととなる。
情報提供者としての協力期間、当局の監視の目が緩くなると、ジョンソンは税金(タックスリターン)詐欺を行った。闇市場やフィッシングで社会保障番号、生年月日などの個人情報を入手し、それらを使って虚偽の税金申告書を作成した。そして、 偽名で開設した銀行口座やデビットカードに還付金を送るよう設定し、ATMから引き出していたのだ。
この彼の詐欺行為は明るみに出て、結果、再度逮捕された。言うまでもなく、情報提供者としての活動は終了し、39種の罪種と7年6カ月の懲役判決を言い渡された。しかし、服役中に、彼は脱獄した。彼は自分の父親を“操って”刑務所から脱獄を手伝わせたそうだが、あえなく再び捕まり、さらに10カ月刑務所で過ごした。
出所後、3年間の保護観察期間にはコンピュータを扱うことを禁じられていたため、仕事に就くことができなくなった。例えば、店のレジ業務もコンピュータを使用するとして、就くことができなかった。生計を立てるのに困った彼は再びオンライン犯罪を実行し、盗んだクレジットカードを買い物に使うようになった。彼のクレジットカード不正は露呈し、再び逮捕されることとなる。情状酌量の結果、彼は1年と1日の刑期を言い渡され、収監される。
再び刑務所を出たジョンソンは、犯罪歴のために仕事を見つけるのに苦労した。しかし、ある時SNSで、連邦捜査局(FBI)の捜査官とつながったことがきっかけとなった。
この捜査官は過去に彼の知っているサイバー犯罪者の逮捕に数多く関わっていた。彼はその人物にメッセージを送ったところ、その捜査官は彼のために紹介状を書き、アドバイスをくれたという。その人物のおかげで彼はサイバーセキュリティのコンサルタントとして生活を立て直すことができたという。本人は次のように語っている。
「もし彼が応えてくれなかったら、私はおそらく20年は刑務所にいただろう。本当に大きな転機になったと思う」
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