【米国「フロードスター」列伝#1】「カリブ海豪華フェス」不正実行者の所業と弁明

豪華フェスの壮大な計画

「麻薬王パブロ・エスコバルが所有していた、バハマの孤島で史上空前のラグジュアリーな音楽フェスをセレブと一緒に体験できる」

このイベントに、あなたはいくらなら行きたいと思うだろうか。

真っ青な空と海に囲まれた南の島に降り立つ真っ白な小型ジェット、高級リゾート感あふれるビーチで日光浴、マリンスポーツや音楽を楽しむモデルたち……。特別感満載のイメージを増幅させたマーケティング戦略で、1500ドルから2万5000ドル(16万5000~275万円)もする高額なチケットはわずか48時間で売り切れたという。そのイベント名は「ファイアフェスティバル」。2017年のことであった。

若き起業家の始まり

フェスティバルの主催者であるビリー・マクファーランドは、1991年、ニューヨーク州に生まれた。比較的裕福な家庭に育ち、若くしてビジネスに興味を持っていた彼は、中学生の時に独自の“ビジネス”を立ち上げ、同級生向けにTシャツやイベントのチケットなどを販売して、その商才の一端を垣間見せたという。高校卒業後、1839年創立の名門ボストン大学に入学したが、「ビジネスに専念するため」と中退。実際、初めて手がけたピザ配達サービスで、地元の学生を相手に大当たりして成功を収めた。

その後、マクファーランドはファイアメディア社(Fyre Media, Inc.)を設立し、アーティスト、インフルエンサー、そしてユーザーをつなぐアプリの開発に取り組んだ。それから、ファイアフェスティバル構想が始まったのだった。

インフルエンサーマーケティングとミレニアル世代

マクファーランドは当時26歳。彼と同世代であるミレニアル世代に、このファイアフェスティバルのプロモーションは“刺さった”。

プロモーションにはケンダル・ジェンナーやベラ・ハディッド、エミリー・ラタコウスキーといった名だたるモデル、すなわちメガインフルエンサーたちが登用された。彼女らはプロモーション動画に出演し、その撮影風景やフェスティバルのロゴを、自身のインスタグラムに《#FyreFestival》のハッシュタグを使い、投稿した。

彼女らの投稿は瞬く間に拡散され、このハッシュタグのついた投稿は24時間で3億回以上のインプレッションを獲得。これにより、このイベントに参加しなければ「トレンドに取り残される」という不安感(FoMO:Fear of Missing Out)にも煽られてか、チケットは瞬く間に売り切れたという。

大惨事と大混乱

しかし、1人当たりのチケットが日本円にして約16万~275万円(当時)にも上ったこのイベントは、開幕とともに大惨事となる。

バハマの孤島、エグズーマ島に期待に胸をふくらませて降り立った参加者は、その期待を大きく裏切られた。会場は設営の途中であるばかりか、現地では飲み水や食べ物すら不足していた。宿泊設備と言えば電灯すらないテントで、その中に置かれたマットレスは雨で水浸し。戻りたくとも帰国便は手配されておらず、会場は大混乱に陥った。

この惨憺たる状況の象徴として、参加者が投稿した、粗末で貧相なチーズサンドとサラダの画像が拡散され、現在でもネット上に残っている。後にマクファーランド本人は「食事に問題はなく、あの画像はたまたまチーズサンドが欲しい人のために用意されたもの」と嘯いている。しかし、その言い分を百歩譲って認めたとしても、“イメージ”の持つ力は大きく、覆すことは難しい。SNSでイメージの力を駆使して高額チケット販売に成功した彼は、いわばSNSに意趣返しされる形となった。

後に、この悪名高きファイアフェスティバルの惨状は、NetflixとHuluによりオリジナルのドキュメンタリー番組として制作、配信されている。