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JR西日本・福知山線脱線事故の20年、経産省「企業買収指針」策定の20年【遠藤元一弁護士の「ガバナンス&ロー」#18】

JR福知山線の脱線事故がもたらした「時間厳守より安全運転」

時間を厳守しなければならない予定があるときは、電車が遅れる可能性があることを想定して時間的に余裕をもって出かけることにしている。最近の鉄道は、JRに限らず、私鉄、メトロも含めて、事故を起こさないことをより重視した運行にプライオリティを置き、かつてのように時間を厳守して運行することに必ずしも強くこだわらずに運行していると思われるからだ。

鉄道各社が時間厳守よりも安全運転を重視していると感じるのは筆者だけではないはず。そのきっかけは、20年前(2005年)の4月25日に、JR西日本の福知山線の塚口-尼崎間で起きた、列車乗客・乗員あわせて107名の死亡、562名の負傷者を出した脱線事故だったのかも知れない。

福知山線脱線事故が生じた背景・原因について多様な指摘がされているが、ここでは2つの点を指摘したい。

ひとつは、スピードアップと安全設備の整備がアンバランスだったという点だ。JR西日本は、福知山線を並行する私鉄に追いつくため、平成元年(1989年)、私鉄各線と競合する京阪神近郊区間の在来線を「アーバンネットワーク」と命名して、度重なるダイヤ改正を行い04年には大阪-宝塚間を並行する私鉄より短時間で走行する運行できるまでにスピードアップを行った。

スピードアップを重視するあまり、安全設備への投資はおろそかとなり、曲線部で速度超過を防ぐ自動列車停止装置(ATS-P)は、並行する私鉄ではすでに導入済みであったが、事故、時、福知山線には導入されていなかった。つまり、高速化とセットで導入されるべき安全設備への投資が伴っていなかったという点が事故の原因のひとつだった。

もうひとつは、ミス(ヒューマンエラー)への対処として、“根絶”することばかりを考えていたということだ。当時、JR西日本は、ミスを犯した運転士に厳しい「日勤教育」や懲戒処分などを課すことでヒューマンエラーを根絶しようとする管理方法を採っていた。

そのような運転士管理が行われていた中で、福知山線脱線事故は、直前の停車駅で所定の停車位置をオーバーランしたことに気を取られていたことが運転に神経を集中することを阻害した原因になっていたと報告書では指摘された。それがきっかけとなって、その後、「人が行うことにはミスが生じることは避けられない」との認識に立ち、ミスが発生した場合でも安全運転を確保できるようなリスクマネジメントが運用されるようになっている。

このような手法はJR西日本以外の鉄道各社でも普及し、現在のような時間厳守よりも安全運転を重視する運用となっている。