小林製薬、フジテレビ…アクティビストによる株主代表訴訟
近時、日本市場でのアクティビスト(物言う株主)の活動が活発化している。また、ここ数年の特徴は、不祥事が発覚した企業に対してアクティビストが株主代表訴訟の提起というアクションを採るようになったことである。
取締役は、会社に対して善管注意義務(会社法330条、民法644条)を負い、自社およびその子会社の業務執行に係る意思決定およびその執行が適正かつ適法に行われるよう求められている。もし、自社グループの提供する製品やサービスなどに法令等違反の疑いがある事態を認識しながら、適時・的確な対応を講じなかった場合、取締役は善管注意義務違反を理由として株主代表訴訟を提起され、損害賠償を請求されるケースが生じる。
紅麹を原料とするサプリメントによる健康被害をもたらした不祥事をめぐり小林製薬の現職・元職の取締役らに対する責任追及訴訟。元タレントがフジテレビの女性社員に加えた性暴力を知りながら適切な対応を講じなかったことなどについて、親会社であるフジ・メディア・ホールディングス(HD)の新旧取締役に対する責任追及訴訟……。
小林製薬はすでにアクティビスト(ファンド)が原告となって株主代表訴訟を提起し、フジHDについてはアクティビストが責任追及を声高に叫ぶ中、男性株主が代表訴訟を提起した。どちらも数百億円という高額な賠償額が掲げられている。
役員4名に1億5800万円の賠償を命じた「TOYO TIRE判決」
そんな中、昨年1月に言い渡された大阪地方裁判所の判例は、小林製薬やフジテレビの株主代表訴訟にも影響を与えるかも知れない。取締役が不祥事を認識しながらタイムリーに対処しなかったとして善管注意義務違反を理由とする損害賠償を認めた令和6年(2024年)1月26日の「TOYO TIRE判決」が、それだ。
事の発端は2014年4月、TOYO TIRE(旧東洋ゴム工業)の完全子会社が製造・販売していた免震積層ゴムについて、特定の種類の製品が建築基準法所定の国土交通省の大臣認定基準に適合しない疑いがあることが子会社社員の情報提供により判明したことだった。
情報提供を受け、TOYO TIREおよび子会社の取締役らは、認定基準に適合しているといえるよう、ゴムの専門家ではあるけれども、免震ゴムの経験のない社員をサポート要員に任命、子会社における当該製品の製造・出荷部門を支援させ、さまざまなトライアルを続けた。
それでも、基準に適合しているとの説明は難しいと一度は断念して14年9月16日午前、出荷停止と国交省への報告を決定した。ところがその日の午後になって、子会社に派遣したサポート要員から、認定基準に適合するやり方を見つけたとの報告を受け、役員は午前中の出荷停止方針を撤回する。
しかしその後、サポート要員が提示した方法でも認定基準に適合するとの結論とはならなかったため、15年2月に出荷停止を再決定、国交省への報告、事態の公表を行った。基準不適合の疑いを子会社の社員が13年6月に直属の上司に報告してからTOYO TIRE本体がそれを知るまでに約10カ月、TOYO TIREが試行錯誤を繰り返して結局、合理的な説明ができないと断念して国交省に報告するまでさらに約10カ月が経過するという事案だった。
訴訟では、製品が認定基準に適合していない疑いがあることが判明した時点で速やかに出荷停止をしなかったことなどでTOYO TIREのレピュテーション(評判)を著しく毀損したとして、取締役の善管注意義務違反が問われた。