将棋漫画「3月のライオン」と上場維持基準に関する経過措置【遠藤元一弁護士の「ガバナンス&ロー」#15】

年度末に思いを馳せた「3月のライオン」

今週月曜日に3月が終わった。

英国に、March comes in like a lion and goes out in like a lamb.という諺がある。月初めはまだ冬で嵐が強いが、月末になると春の陽気になる3月を「3月はライオンのようにやって来て(ライオンのように荒々しい天気で始まり)子羊のように去っていく(子羊のように穏やかな天気で終わる)」と表現しているとのことだ。

「3月のライオン」という言葉を聞くと、筆者は、15歳でプロ棋士になった少年と彼を取り巻く人々の日常や成長を描いた羽海野チカのコミック(アニメ化もされている)を思い浮かべる。3月は、将棋界では最終局が行われる月。3月の最終局に昇級(降級)を賭けた棋士はライオンのように戦うことが、このタイトルには込められているようだ。

2025年3月は法曹実務家である筆者にとって考えさせるテーマや話題が目白押しだった。そこで今回は、3月の最終局に昇級(降級)をかけてライオンのように戦う棋士と状況が似ているという観点から、上場維持基準に到達していない上場企業に上場を暫定的に認める「経過措置」を取り上げたい。

東証の市場区分の見直しと「経過措置」

東京証券取引所が22年4月に、市場第一部・市場第二部・マザーズ・JASDAQ(スタンダード・グロース)の4つの市場区分を「プライム市場」「スタンダード市場」「グロース市場」の3つに再編して3年が経過した。

再編前の市場区分では、企業が上場後も時価総額などの重要な基準を維持する動機付けとならず、持続的な企業価値の向上にはつながらないことが課題とされていた。そこで、投資家を呼び込み、流動性を高めることで日本市場を活性化する狙いから、従来の各市場のコンセプトをより明確にして、上場基準の見直しを図るため、市場区分の再編が行われた経緯がある。

もっとも、新市場の上場基準は旧市場よりも厳しく設定されているため、旧市場に上場していた企業については、継続して新市場で上場できるように緩和した基準を適用する「経過措置」が設けられた。

具体的な内容は、新市場の上場基準を満たしていなくても、その基準の達成に向けて基準達成の目標期限を示した計画書を作成して、それを開示すれば、上場維持を認めるという緩和措置が設けられたのだ。

ただし、緩和した基準をいつまでも適用し続けるのでは、市場区分を再編して新たな上場基準を設けた趣旨が損なわれる。経過措置が無期限ではなく、期限が区切られるのは当然である。実際、経過措置の終了期間は、当初の「当面の間」という表現から、その後、市場再編が行われた22年4月を起点とした3年後とされ、さらに原則1年の改善期間を置く「3+1」年とされたため、経過措置は今年3月以降、順次終了することになっている。

経過措置が終了する本年3月1日以降の基準日は各上場企業の事業年度の末日である。そのため、経過措置が適用されている(緩やかな上場基準が適用されている)会社は、事業年度の末日(3月決算の会社は3月31日、6月決算の会社は6月30日)からは、本来の上場維持基準が適用される。

本来の上場維持基準に適合しない場合、原則としてその基準日から26年3月末までの1年間が改善期間となり、26年3月末時点でも基準に適合しない場合は、監理銘柄(上場廃止基準に該当する恐れがある銘柄)および整理銘柄(上場廃止基準に該当し上場廃止が決定した銘柄)に指定され、6カ月後に上場廃止となる。

また、基準達成の目標期限を26年3月1日以後に最初に到来する基準日を超える計画を策定・開示している会社(例えば27年3月末)については、25年3月末から26年3月末までは改善期間として扱われる。ただし、26年3月末時点で基準に適合していない場合でも、超過計画として開示している27年3月末までは監理銘柄として上場を継続することができる。期限である27年3月末時点で基準に適合していない場合は、整理銘柄に指定され、6カ月後に上場廃止となる。