日本企業“基本給が増えない”驚愕の根拠―「福利厚生、充実しています」の甘い罠

複雑な手当制度が「労務対策の基本」の日本企業

野澤弁護士が続ける。

「日本では解雇がそもそも困難な諸制度に加えて、『不利益変更禁止の原則』などが判例等によって確立されており、給料、特に基本給の減額はなかなか出来ない状況です。だから、残業代・退職金計算の確実な基礎となり、いざ裁判となった際のわかりやすい提案根拠となる『基本給』の昇給を抑え、複雑な各種手当制度を導入するのが労務対策の“基本のキ”となっているのです。

(求人サイトなどでよく見かける)福利厚生制度が充実していることをアピールする外向けの発信文章は、人事・労務・広報担当者らが役員の古びた考えを最大限忖度した上で流行りのカタカナ言葉をしっかり組み込んで作り上げた血と涙と汗の結晶と言えます」

つまり、現在の日本社会の実態を踏まえると、基本給を上げることで、のちに多額の金銭的補償が会社側に発生する可能性があり、会社側としては労働者へ配分する資源はなるべく基本給に振り分けないようにすることが経済合理性に叶った行動と言える状況なのだ。反対に、労働者、労組側の立場に立てば、福利厚生をなるべく最小限に抑え、基本給のアップを目指すことが極めて重要ということになる。

実態に即した解雇をめぐる法整備がなされていないことによって、労使の“知恵比べ”や“我慢比べ”が続いているわけだ。そもそも、ステークホルダーである従業員への適正な分配は、コーポレートガバナンスが正常に機能する大前提と言える。とはいえ、ビッグモーターのように大量退職が発生するのは論外としても、従業員側が、所属する企業のコーポレートガバナンスを変えていくことは本当に難しい。他方、現場にいて不公平を感じていたことが、管理職になると、今度は逆に特権に変わっていく。ある程度収入が増えてくると、出世などもちらついて、「基本給を上げろ」という強い欲求もなくなってしまうものだ。

ガバナンスという視点からも、実態に即した解雇をめぐる法整備が必要と言える。