(#1、#2から続く)「国際基準」の名のもとに、本来あるべき会計プロフェッションの自主規制、言い換えれば、自治能力が失われていくことに、どれだけの日本の会計士が危機感を覚えているだろうか。
確かに企業が開示するサステナビリティ情報の保証業務、つまり非財務情報の信頼性を担保することは、投資家のみならず、一般消費者がその会社の製品購入やサービスの提供を受ける際、重要な判断指標となってきている。今後も、この流れは強まりこそすれ、弱まることはないだろう。
こうした潮流に対し、旧来型の会計専門職ないしは現行の会計監査制度が根底から見直しを迫られていくことは確かだ。だが、だからと言って自主規制の要である倫理基準すらも自ら定めることができないようでは、会計士の独立性、職業倫理性さえも地に堕ちていくといわざるを得ない。
昨今の日本では「国際基準に合わせる」というとそれだけでよいことのようにとらえる向きもあるが、国際会計基準の策定をリードしているのはEU(欧州連合)諸国と言える。それもあって、アメリカは会計基準についてはSEC(米国証券取引委員会)基準(正式にはFASB=米国財務会計基準審議会基準)を、また、倫理基準についてはAICPA(米国公認会計士協会)の職業行為基準(Code of professional conduct)を遵守しており、国際基準とは一線を画すことで、自主規制機能を完全に手放すようなことはしていない。
EUが国際基準の制定を主導するのは、ルールメイクによって利を得るため、という側面も否定できないだろう。EUはサステナ基準や環境基準に対してもこうしたルールメイクで存在感を示しており、会計士に関する倫理基準、サステナ情報保証業務に関しても同様の狙いがあると見るのは、あながち的外れとは言えないだろう。