富士フイルム元CFOが問う「不祥事企業」の経営者資質 #1

“上”を信じられない“下”が
不祥事を”外部”に「内部告発」する

COSOの最新版では冒頭に「ガバナンスとカルチャー」という項目が掲げられています。カルチャーは「企業文化」のことですが、巷間よく言われる“企業風土”とは異なります。

COSOがいう企業文化は、経営理念や倫理的価値観に裏打ちされたものにほかなりません。企業文化がしっかりしている企業は、経営トップが経営理念や倫理的価値観を社員たちに伝えています。企業文化が徹底している会社は社員に対して、①判断の基準、②コミュニケーションの基準、③モチベーションの基準――の3つを与えます。モチベーションの基準が向上していくと、他の社員、つまり仲間を裏切れないという文化が形成され、おのずと不祥事が減っていきます。

米GE(ゼネラル・エレクトリック)の企業行動規範には「誠実性マニュアル」というものがあり、CEO(最高経営責任者)は「数字で結果を出すことや競争本能や上司の命令に背くとも誠実性を犠牲にしてはならない」と声明を出しています。こういう企業文化が醸成されていると、例えば部長クラスが年度末で「何が何でも売り上げを取ってこい!」と部下に命令した際、部下が誠実性マニュアルを見せて、「部長、そんなこと、ホントにやってもいいんですか?」と反論すれば、部長は折れざるを得ないでしょう。こうして企業不祥事を起こさない方向に会社全体が進んでいくわけです。

ガバナンスという言葉は「統治する」「支配する」と訳されますが、もともとはギリシャ語の「船の舵をとる」という意味です。要するに、CEOは”船長”です。船を操舵していて暴風に見舞われたり海賊に遭ったり、思わぬことに遭遇したとき、沈着冷静に迅速な判断をする。安心安全に航海を続けて、目的地に人や荷物を届ける。企業で言えば、持続的成長と中長期の企業価値向上という目的を持って、無事に航海を続けて目的地に辿り着くための意思決定のフレームワークを意味しています。船長=CEOは“人格者”でなければならないし、だからこそ、優れた人間教育と倫理観に裏打ちされた革新的な責任のある経営者を育成することが最も重要になるわけです。 

COSOでは「経営陣の誠実性と倫理的価値観の重要性」として、経営層は誠実性と倫理的価値観の水準を超えることができないと述べています。下(社員)は常に上(経営・管理層)の誠実性と倫理的価値観の水準を見ています。もし不正が行われた場合、経営陣が信頼するに足ると思えば自ら通報しますが、問題点を指摘しても返り討ちに遭うと思えば、通報しないか、行政やマスコミといった外部に「内部告発」するでしょう。それは公益通報者保護法があっても同じことです。

実際、「飛ばし」で巨額損失を粉飾したオリンパス事件(2011年)や、旧経営陣個人の賠償責任が認められた東芝不正会計事件(2016年)、日本郵政グループの保険料二重徴収事件(2019年)などはその典型でしょう。下は上に倫理的価値観がないと判断したからこそ、社外へ内部告発したのです。

それでは、近年の日本の企業不祥事、約60のケースをピックアップして、法則性を導くとどうなるでしょうか。不祥事を起こした企業の経営者が自らマスコミの前に出てきて謝罪し、再発防止や引責辞任や報酬減額を公表した企業だけをピックアップすると、前段の通り、実に70%近くが経営者資質に問題があることがわかりました。#2では、実際の事例を挙げて、その詳細を分析してみたいと思います。

(#2に続く)

*本記事は2023年4月に旧サイトに公開したものを調整のうえ、再公開したものです。

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