(5)ステークホルダーが納得する「報酬」の開示を
(5)の報酬等の適時の開示は、第三者委の活動に投じられたコスト、つまり委員報酬だけでなく、補助活動に関わったすべてのコストについて、報告書の公表と同時に適時開示することを意味している。
また、第三者委の委員がその後、調査を委嘱した当該企業と何らかのビジネス上の関わりを有するようになった場合、その内容および理由について一定期間開示することも、独立性の観点から必要であろう。
第三者委に支払われる報酬をめぐっては、当該企業と第三者委との間でトラブルが生じたケースが過去に何件かあった。また、当初の報酬額を減額請求したケースもいくつか明らかになっている。
後者のケースでは2つの事例が挙げられる。
ひとつは、医療ベンチャーのテラ(2022年破産)で、第三者委に一度報酬を支払った後で問題となり、減額されたという18年のケース。その年度会計では特別損失で処理したものの、のちに特別利益で払い戻しを計上している。
もうひとつは、マーケティング支援サービスなどを提供するALBERT(アルベルト、23年アクセンチュアが吸収合併)で、当初計上した特別損失を適時開示で減額した20年のケースである。
テラは当時、第三者委の調査費用等として1億7300万円の特別損失を計上したが、その後の協議の結果、次の期に報酬減額分1900万円を特別利益に戻し入れている。売上高が5億円余の会社から当初は1億7300万円もの調査費用を第三者委員会が得ようとしたわけだ。
一方、ALBERTは、外部調査委員会の調査費用総額として1億9000万円の特別損失の計上を予定したものの、最終的に1億7600万円の特別損失の計上を開示している。この時の売上高は29億円、純利益は1億1500万円。純利益を超える報酬を第三者委が得たことになる。
2社のケースとも、第三者委の報酬が適正額だったのかどうか、大いに疑問が残る。不正や不祥事は本来あってはならないし、絶たなければいけないが、調査自体が企業そのものの命脈を絶つようなものでは意味がない。
確かに、日弁連の第三者委員会ガイドラインでは、委員の報酬は時間制を原則と定められている。結果、第三者委としては、とりわけフォレンジック調査などでマンパワーを投入すれば投入するほど報酬総額が膨れ上がる格好だ。
不祥事を起こした企業側は、言わば“弱み”を握られてしまう立場にあるわけで、執行を担う経営陣は俎板の鯉と言える。その時にこそ、執行に代わって社外役員が中立的な立場、株主の目線から報酬面を含めた第三者委の在り方をリードすべきで、ここにも社外役員の重要な役割があると言える。
そもそも、第三者委の報告書には、本質的に、監査法人が行う監査意見表明と同様の重みがある。そうである以上、報告書はステークホルダーからの全幅の信頼を得られるものでなければならない。そのためにも、調査にどのくらいの費用がかかったのか、報酬を含めた開示が必要なのである。
一方、監査法人の監査報酬については有価証券報告書で開示されている。親会社、子会社それぞれと、全体の連結ベースで総額いくら支払ったのかを誰でも知ることができる。しかし、第三者委の関連コストを実際に開示している例はほとんどなく、まさに“ブラックボックス化”していることに警鐘を鳴らしているのである。
第三者委のコストを開示すれば、巨額の報酬を支払いながら、ステークホルダーが納得できない報告書が作成された場合、依頼した企業側が株主代表訴訟を起こされるケースも出てくるだろう。
報酬の開示はステークホルダーが納得できるかどうかの判断材料になるだけでなく、第三者委の透明性を高め、依頼した企業側にとっても大きなプレッシャーとなり得る。この力をもってして、不祥事を引き起こした組織が再生することこそ、要求されているのである。
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以上、私なりの「第三者委員会5箇条」を述べてきた。不正、不祥事がどの企業、組織においても起こり得るものである以上、自浄作用を最大限発揮させる道具として第三者委は有効に機能しなければまったく意味がない。
いまだ不祥事企業の“禊”の役回りでしかないような第三者委、そしてそんな調査報告書が少なくない中、当該企業は言うに及ばず、第三者委そのものにも厳しい視線が注がれ続けることが求められている。
(取材・構成=Governance Q編集部)