八田進二教授が考える「第三者委員会5箇条」《後編》【第三者委と不正検査の現在地#1】

(4)第三者委の使命はステークホルダー目線の「真相究明」

(4)は委員会の使命である。

もともと第三者委員会というのは「事実究明委員会」、あるいは「真相究明委員会」なのであって、いわゆる「root cause」と呼ばれる最も根本的な原因は何なのかを調べることにある。第三者委の委員は、委員会が真相究明委員会であることを自覚し、そうした委員会の使命を完遂できない場合には自ら辞任することもあり得る覚悟で着任する必要がある。

前編でも触れたが、メディアは言うに及ばず、当の委員ですら第三者委を「責任追及委員会」と勘違いしている人が結構多い。特定者の断罪を目的したものではなく、真相究明委員会であり、委員会の使命はあくまでも不正や不祥事の原因究明にある。ただ、原因と一口に言っても、原因の根本まで掘り下げていく使命がある。

その点で強調しておきたいことは、近年発生している企業不祥事の多くが子会社を舞台としていることである。今回のフジテレビも、持ち株会社フジHDの子会社だった。

子会社で第三者委が立ち上がると、「子会社の不正」ということでその子会社だけに焦点を当てた限定的な調査が進められることが多い。結果、指揮命令系統が上手く機能していなかったなどともっともらしく原因が報告されるが、実は子会社の本当のグリップを握っているのは大株主である親会社のケースがほとんどだ。

子会社での不正は、むしろ親会社のガバナンス不全を真因としている可能性が高く、そうした親会社の状態を色濃く投影しているものと推測できる。であるなら、仮に子会社に設置された第三者委であっても、その子会社だけでなく、親会社にまで対象を拡大して調査に臨む必要が出てくるだろう。

そのような場合には、日弁連が策定した「企業等不祥事における第三者委員会ガイドライン」の趣旨に則って、第三者委側は調査範囲の拡大、期間の延長といった措置を講ずるべきである。それでも、企業側が首を縦に振らない場合、第三者委は本当の意味で自分たちの納得する真相究明ができないとして、辞任することも視野に入れざるを得ない。

確かに外形上、第三者委は不祥事を引き起こした企業側から委嘱されている。しかし、本当の依頼者は株主を中心としたステークホルダーにほかならず、毀損された企業価値を如何に回復させるかということを念頭に置いて調査をすれば、第三者委の使命とは何かがおのずと見えてくる――少なくとも私はそう考えている。