八田進二教授が考える「第三者委員会5箇条」《前編》【第三者委と不正検査の現在地#1】

(2)誰を委員に選ぶのか――問われる専門性と「第三者」という立ち位置

つづく(2)の委員の選任は取りも直さず、第三者委に誰を選ぶかということである。誰をどうやって選んでいくのかという選任プロセスの問題だが、これを透明性のある形で、かつ、委員に選ばれる人が本当にその事案に関して適格性を有しているかどうかが問われてくる。

第三者委委員の適格性については、私は早い段階から疑問を呈してきた。実際、2000年代初頭に新たな対応として立ち現れた第三者委の委員のほとんどすべてが弁護士だった。ところが、当時、第三者委が設置される不祥事案の7割近くが不適切会計。しかも、直ちに金融庁や東京証券取引所に処分されるような問題ではないが、「どこかおかしい」といったグレーゾーンのケースが大半であった。

実際にその頃は、金融庁も課徴金を課したり、訂正報告書を提出させたりする前に、企業側に自分で原因究明をさせていたし、東証も粉飾が指摘されている上場企業に対しては、自ら原因を究明して早期にそれを防止するような対応を取るならば、直ちに上場廃止にはしない、という姿勢をとっていた。

そのような状況でありながら、事案が不適切会計であっても、第三者委委員に弁護士が就任するケースが目立っていた。私はそうした傾向に対して、拙稿(「第三者委員会をめぐる会計上の課題と展望」2013年)で「会計の問題でありながら、なぜ弁護士ばかりなのか」と問題を提起していた。

率直に言って、多くの弁護士は企業会計の知見に乏しい。それ以上に重要なのは、会計上の判断の問題である。会計には、意図的な形で決められた決算期間というものがある。3月決算企業であれば、何が何でも3月末でカットオフしなければいけない。他方、事業活動はシームレスにずっと継続している。当然ながら、決算日で事業活動のすべてが決着するわけではない。

そこで会計上の処理として、将来の見積もりをしてみたり、予測数値を入れたりする。つまり、主観的な判断要因が山のようにあるのだ。それらの予測や見積もりを意図的に捻じ曲げると不正になるが、逆に、一定のルールに基づいた予測を織り込まないと、これまた不正になる。将来予測や見積もりはあくまでもその時点のものであって、将来的に本当に正しい形で着地できるかどうかは分からないのだ。

ところで、「不適切会計」とのちに言われるケースでは、その将来予測や見積もり時点の会計処理が間違っていたと指摘されることが多い。実際、長銀(日本長期信用銀行、現・SBI新生銀行)や日債銀(日本債券信用銀行、現・あおぞら銀行)の経営破綻(ともに1997年)の際にもそういった指摘があった。

ところが、実際に不適切会計とされたものでも、会計的に判断した場合、当時の与えられた資料ではこれくらいが適正と言える見積もりもある。しかし、すでに世上で「粉飾」と騒がれたのちに第三者委委員として弁護士が入ってくると、とかく犯人探しを始める。誰が間違った経営判断をしたのかを追及し“犯人”を処罰したがる報告書を目にするのも事実だ。

第三者委で問題なのは、委員に弁護士の中でも特に検察出身の「ヤメ検」が好まれる傾向にあること。しかし、検事が行う捜査と第三者委が行う調査はまったく性質を異にする。確かに、現役検事の使命は犯人探しと責任の特定だが、第三者委の調査にその手法を持ってくると、関係者のヒアリングも勢い敵対的にならざるを得ない。第三者委は「責任追及委員会」ではないのだ。