【子会社ガバナンス#3】「親会社からの天下り」人事が子会社の成長を阻害する
#1、#2では実例を引き合いに出して、子会社のコーポレートガバナンスが機能不全に陥り、ひいてはグループ全体のガバナンスを阻害しかねない状況を伝えた。それでは、その核心にある問題は何なのか――。やはり、子会社の成長を二の次とする“因習”にあるようだ。
子会社での“発奮”が許されない天下り組
日本の大手企業は子会社や関連会社を多数所有し、親会社から子会社・関連会社への“天下り”人事が多いとされる。親会社にとっては、本体の人事的な新陳代謝を図り、最後まで処遇できなかった社員に肩書と報酬を与えられるメリットがある。天下りする本人は、出世を果たせなかった敗北感はあるかもしれないが、考え方によっては、会社人生の“余生”を過ごす場になる。しかし、天下りを受け入れる当の子会社にとっては、決して歓迎できるものではない。
天下りもさまざまだが、以下3つの例を取り上げる。
天下り人事は、本人の資質や適性ではなく、その時に空いているポストで決まるケースが多い。
ある大企業の管理部門系の部長が、昨年末、60歳を前にして子会社への転籍が決まった。部長が就くのは子会社の監査役だ。部長は転籍を知らせる取引先などへのメールで、「これから会計の勉強を始めます」と書いた。
監査役は株主総会の決議によって選任され、取締役の職務執行を監査し、監査報告を作成する。取締役が不正を行った時、または不正を行うおそれがある時は取締役会に報告する義務がある(会社法329条、381条、382条)。
【関連記事】
ACFE JAPAN岡田譲治理事長インタビュー「監査役の矜持」
https://cgq.jp/gq-report/2712/
「会計の勉強を始めます」と部長が書いたのは、監査には、業務監査に加えて会計監査があるためだが、逆に言えば、監査役、とりわけ子会社の監査役には会計の知識がなくても就けるわけだ。しかもこれはこの部長だけに限ったケースではなく、一般的な人事慣行と言えるだろう。
コーポレートガバナンスやリスクマネジメントの観点からも監査役は大変重要な職務だが、現実は、子会社や関連会社の監査役は親会社からの天下りで占められ、監査の“素人”が就くケースが多い。
この部長の任期は4年を予定しているという(取締役の任期は原則1期2年、監査役は原則1期4年)。4年間、一所懸命に会計を勉強すれば、専門性は身に付くかもしれないが、果たしてこの部長は実際に勉強する意欲が沸くだろうか?
天下りは本人のモチベーションを高めることも難しい。
バブル期に金融機関に入社し、猛烈に働いて、部長在任中は「鬼の××」と、“昭和時代”の呼称が与えられた部長。本人は取締役昇格を信じていたが、叶わず、子会社の常務へ転出が決まった。当の子会社の社員はこう振り返る。
「その部長が天下りして来るという噂が広まり、社内では“面倒くさい”と漏らす社員もいました。しかし、会社の事業は頭打ちで将来性がなく、この部長であれば変えてくれるかもしれないと、歓迎する声も少なくありませんでした」
しかし部長は着任すると、やる気をまったく失っていた。体調を崩した影響もあると見られたが、絵に描いたように、午前中は日経新聞を読み、昼は長いランチに出かける有り様だという。
天下りして業績を上げた例もある。
50歳を目前にした某メーカーの社員は、自ら希望して関連会社に出向した。役職定年にかかることが確実となり、先行きを考えた末の決断だった。3年前、自分を可愛がってくれた先輩が関連会社に天下りしていた。関連会社の次期社長就任が見えていた先輩の誘いもあり、出向し、そのまま転籍するつもりだったのだ。
しかし、親会社の派閥争いの余波で先輩が失脚、退社してしまった。当然、この社員の居心地は悪くなったが、一念発起して仕事に励み、関連会社で過去最高クラスの案件を獲得した。
すると、この社員は出向を解かれて親会社に呼び戻された。上層部が「関連会社に置いておくのはもったいない」と言ったとも、これも派閥争いの余波だとも言われた。本人も周囲も真相は分からなかったが、本人は、自ら獲得した案件の進捗を見ることなく、子会社を去った。
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