東北大学大学院・細田千尋准教授「脳科学から考える“令和の新しい経営者”とは」【新春インタビュー#13】

次世代の経営者は「リーダーシップ」よりも「個別性の許容」

ところで、企業における“学び”という視点では、世代間ギャップが議論になることがあります。企業文化の醸成という意味でも世代間の認識の違いは大きく影響してきますが、特に問題になるのは働き方に対するものです。結局、どの世代にも問題があって、まずそれぞれの世代の問題を自覚することが重要だと思います。

今は昔と違って、働く人が大勢いた時代に出世するためにモーレツに働いて、家庭内のことは専業主婦である妻が守ってくれるという時代ではないわけです。少子化で子どももいませんし、共働きで家を守ってくれる人もいない中、家庭を顧みずモーレツに働くことはできません。

一方、「Z世代」と言われる人たちは、上司や先輩からの指摘や注意をハラスメントと感じやすく、集団の中で自分の利益を追求することに不安を抱いていると思います。

主語が会社だった人たちと、主語が自分という世代の人たちがどのようにすれば上手くやっていけるのか。個の利益と集団の利益を分離して考えるのではなく、どういうふうに利益を一致させるのかがもう少し可視化されていいのではないか。

今、そしてこれからの新しい世代の人たちは集団として何が出来るかだけでなく、集団に関わることで、自分自身にとってどんなメリットがあるのか。自分の能力がどのように発展し、それがどのような経験値として次のステップにつながるのかを実感できる仕組みを考えたほうがいいでしょう。

ただ、若い人たちが、ずっとその会社でその仕事をし続けるわけではないという前提で考えなければならない時代です。そのため、先輩たちも積極的に教えようとはならない。だから、若い世代も多くの学びの機会を失うリスクが高まっているのが現状になってしまっています。

結局、若い人たちにとっての人的資本も減っているわけです。そういうことが、どの世代もきちんと理解できていないのではないかという気がします。そこをうまく結びつけて可視化する。主語が「私」や「僕」であることも尊重しつつ、企業全体として「われわれ」という一体感を出す、個人と集団の利益と整合性を図ることが大事になってくのではないかと思っています。

そうした世代間ギャップが存在する中で、経営者のリーダーシップのあり方はどうあるべきでしょうか。

今のリーダー像は全員を引っ張っていくということだけではなく、ある種の“雑用係”(問題解決の調整役)としての高い能力が求められると、私は思っています。

問題となる火種を早く見つけていかに鎮火するか。その解決方法として、「双方の視点に立てる」ということが重要で、昔のように強いリーダーシップでチームを引っ張っていくっていうスタイルは、日本では成立しにくいのではないでしょうか。むしろ、多様な価値観を認め、一人ひとりの特性を活かす姿勢が求められていると思います。

昭和、そして平成の中頃までは集団の価値観しか考えなくてよかったわけですし、その価値観に合わせられない人は、場合によっては切り捨てられてきたわけです。しかし、今の時代には個別性を大事にする視点、一人ひとりがどういう価値観を持ち、どういう問題を抱えているのかを見ていくことが求められます。

ただし、そこに“感情”を乗せる必要はないでしょう。否定はもちろんのこと、同調するとか、共感するとか……そういった感情論は一切外した状態で、事実だけを淡々と見極めていく。多様な価値観がある中で、その人が持つ価値観も含めたファクトを追っていって、その結果、最適解として出てきた答えの中に、個別性を持たせることができればいいわけです。

このように言うと、無味乾燥に聞こえるかもしれませんが、違います。

「Aという解決方法ですべて解決します」ということではなく、ひとつの事象に対していくつかの解決パターンを用意して、そのパターンを個人の特性に合わせていくようなことができればいい。結果、当人にとって最適な解を与えてもらうから、共感してもらった、認めてもらった、自分の立場に立ってもらったと感じるのです。

感情が先にあるのではなく、問題をめぐる事実の洗い出しと解決策のパターン出しが重要であって、それをいかに個の利益にマッチさせるか。それができる人こそ、これからの真のリーダーに相応しい経営者なのではないかと思います。

(取材・構成=編集部)