東北大学大学院・細田千尋准教授「脳科学から考える“令和の新しい経営者”とは」【新春インタビュー#13】
男女の性差なく子育て中の人たちが働きやすい仕組みとは
企業における社員の働き方の問題で考えてみますと、女性活躍推進の流れの中で、男性の育休制度が整備され、実際に取得を推進している企業が多くなっています。しかし、取得しない男性社員はいまだ多いですし、仮に取得しても1カ月程度と、女性に比べて非常に短期間です。
また、男性社員が育休を取ったことの価値や波及効果、という点はあまり語られていないように思います。企業が男性の育休制度を導入することの先に、組織全体のパフォーマンスの向上や当人とその家族のウェルビーイングに直結していることがより明確になれば、男性の育休取得率も上がるのではないでしょうか。
一方、女性の働き方に関しては、CSR(企業の社会的責任)活動のような地域社会とのつながりで語られる場合が多いですね。この点を別視点で考えると、母親として子どもを育てている女性たちが、その企業で正社員としてきちんと働き続けるためにどういう仕組みがあればいいのかという課題が浮かび上がります。そして、その仕組みが子育てをしている社員だけでなく、会社全体、経営者側にとってもどのようなメリットを生むのかを考えていくのです。
子育てをしている人たちが働きやすい仕組みとはどういうものなのか。それがプライベートと切り離した形ではなくて、プライベートとある程度リンクした上で、働きやすい環境をつくるとすると、その仕組みが会社の非財務価値としてどれぐらい本当に機能するものなのか。
私たちは、内閣府「ムーンショットプログラム」の《目標9》で、子どもが育つ場に多様な大人が関わり、子育てを社会化するための仕組み(Child Care Commons)の提案を行っています。その研究の中で、民間企業、自治体と連携し、子育て中の社員が子どもを職場に一時的に連れてきたり、逆に同僚が育児現場に関わることで、職場と家庭の境界を柔軟にする新たなモデルを模索しています。
育児は決して個人の問題ではなく、企業文化や組織全体のあり方を変える重要な要素です。企業が従来の育児休暇や保育園設置といった施策を超えて、子どもが成長するプロセスに直接関与する新しい仕組みを導入することで、女性のキャリア形成支援や子どもを持つことへの意識変容を促す、共創的な取り組みを進めています。
こうしたモデルが従業員個人や企業全体に与える影響を評価し、新しい経営の形を提示することで、エビデンスベースで企業が人材戦略と社会貢献を両立できる仕組みを構築したいと思っています。
このほか、研究者として昨年来注目しているのは、顧客情報の一元管理で知られる米セールスフォースの創業者で最高経営責任者(CEO)でもあるマーク・ベニオフが提唱する「1-1-1モデル」という社会貢献です。
これは株式、製品、そして社員の時間の1%をコミュニティに還元するというもので、現在では助成金ベースで1億ドル以上、社員がボランティアに費やした時間は100万時間を優に超えると言います。
たったの1%を共同体や社会に還元することで、働きやすさなど、企業の環境などが圧倒的に変わっていくという彼のモデルはとても示唆に富みます。今回の私たちの取り組みも、その考え方と共通するところがあると考えています。
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