日経弁護士ランキング首位、太田洋弁護士「今年は上場企業経営者が“極度の緊張”を強いられる年に」【新春インタビュー#12後編】

アクティビスト、同意なき買収が活発化する1年に

アクティビズムに対する企業防衛策が、経営者の“自己保身”になっているという批判が根強くあります。そうした誹りを受けないためには、やはり社外取締役の役割が重要で、右顧左眄しないようなしっかりとした人物を社外取締役に迎えるべきなのは言うまでもありません。

そもそも、日本企業において、経営者の“自己保身リスク”は欧米に比べればはるかに低い。なぜなら、日本の役員報酬は非常に低く抑えられており、欧米では10億、20億円は当たり前ですが、日本ではせいぜい1億、2億円です。日本企業の経営者は多くが“従業員共同体”から選ばれたトップなので、株主からの規律以上にそうした従業員からの規律が利いていて、従業員共同体の中での信任を得られなくなったら追い出されるという傾向があります。

社外取締役のミッションは、煎じ詰めると、ダメな経営者のクビを切り、良い経営者に引き継いでいくという役割です。だからこそ、社外取締役の役割は非常に大きい。

ただ、日本企業の社外取締役の就任状況はあまりに玉石混淆と言わざるを得ません。非常に立派な方が社外取として本来の職責を十分に果たしている一方、自分の保身しか考えてない人がいまだに多い。自分のレピュテーション(評判)とか、報酬とかに固執し、経営者の顔色ばかり窺う……。社外取締役がアプリオリにきちんと機能するかというと、そうではないのが実情だと思います。

ひとりで数社の社外取締役を引き受ける“兼務”の問題も人によりけりだとは思いますが、例えば、常勤の職があって社外取締役をやるのであれば2、3社が限界でしょう。あるいは、引退した経営者で常勤の職がないという人だったら、5社くらいは兼務できるのかもしれません。

とはいえ、社外取締役のミッションが何かということについての認識が日本で成熟しているとは言えず、社外取締役に相応しい人材が少ないという現状では、ある程度、兼務になるのは仕方がない側面もあるでしょう。

最後に、今年のコーポレートガバナンスの動向について特に強調しておきたいことですが、昨年後半以降、私自身が空前の忙しさでして(苦笑)……。それは結局、アクティビストの活動が非常に活発化し、また「同意なき買収」も相当程度増えてきているということです。

これはある種のスパイラル効果であって、同意なき買収が活発になっているからアクティビストが入ってくるという流れもありますし、アクティビストが入っているから同意なき買収も成功するのではないかという流れで、同意なき買収の提案も増えてくるという傾向です。こうした傾向は今年、加速度的に強まると考えています。

米通信社ブルームバーグの調査では19年以降、日本は一貫して米国に次いでアクティビストのキャンペーン件数(株主提案だけでなく、経営陣の再任反対なども含む)が多い国で、世界2位の状況が続いています。大体、日本は米国の6、7割くらいの件数。経済規模や上場企業数から見ると、米国よりも活発と言っておかしくない。

そのような状況から考えると、上場企業経営者にとっては、今年は昨年以上に“大変な年”になると認識しています。日本企業がかなりのインパクトで、資本市場の荒波に晒される1年になるのではないでしょうか。それは、経営の緊張感が極度に高まって全体としてコーポレートガバナンスが前進する年になる一方、個々の企業経営者によっては受難を強いられる年になる――ということを意味します。

いずれにしても、大変な年になるのは間違いありません。

(取材・構成=編集部)